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もう一つの2050 年、ゼロ目標の痛み
2024/12/18(Wed) 文:(水)
日々の暮らしで利用する食品トレーや身の回りにある合成樹脂商品から高度な半導体製造、太陽光発電パネルなどの再生可能エネルギー機器まで使われているプラスチック。今や現代の社会経済活動に不可欠な存在だが、一方で廃プラ処理・処分のルーズさによる海洋流出、微細状態になったマイクロプラによる海洋汚染などが深刻化、こうした廃プラ類が2050年頃には海にいる魚の量を上回るほどに増大する可能性が国連機関などから報告されている。
そうした世界の環境汚染を食い止めるための「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある条約交渉会議」の5回目(INC5)会合が韓国・釜山で開催(11月25〜12月1日)されたが、会期を延長したにも拘わらず予定した先の国際条約案を時間切れで採択できずに散会、再度INC6会合を招集して協議することとなった。国連の事務局は当初2024年中の条約採択を予定して22年以来交渉を重ねてきたが、プラ製品(設計)規制や供給プロセスのあり方、対策のための途上国支援などを巡ってまとめ案に合意できず、次回への持ち越しとなった。
今回会合には177ヵ国の国連加盟国・国際機関・NGOなどが参加(予定含む)、日本からは関係省庁の幹部が出席したが、閉会数時間前に韓国大統領府が「非常戒厳令」を宣布、厳戒態勢がとられつつあったことから帰国できるか心配された。間一髪、会議場がソウルではなく釜山であったため辛うじて難を免れたという。
今回の条約交渉で難航したのは、特にEUが強く主張した生産・製品・供給・使用プロセスに関する直接的な規制導入措置とこれに反対する産油国や多くの途上国が求めた漸進的な対策の実施要求だったという。日本もプラ製品等への直接的な規制は各国にある石油化学エチレンセンターなどの縮小・撤退を招き、失業者増や地域経済の崩壊に連動するのでまずこうした事態への対応を優先すべきとして、EU方針には同意しなかったようだ。これだけ便利かつ豊かになった消費文化の先の2050年までに、ゼロカーボンの実現と海洋プラごみの追加的汚染ゼロという二つの目標は我々に大きな痛みを課すものだが、果たして克服できるだろうか。
目標が「上に凸」って何のこと?もっと分かりやすい言葉で
2024/12/11(Wed) 文:(M)
「上に凸(トツ)」「下に凸」。これは何のことか。25 日、環境省と経済産業省が開いた有識者による合同会議でのキーワードだ。
この会議で事務局が2035 年度の温室効果ガス削減目標として、13 年度比60%削減を軸とする案を示した。恥ずかしながら「上に凸」「下に凸」を知らなかったので調べると、数学の関数の授業で使う用語のようだ。
現在の排出量削減ペースと50 年の排出ゼロを直線で結ぶと、35 年度は60%減となるという。
線がカーブして60%よりも上に膨らむと「上に凸」、下だと「下に凸」となる。つまり「上に凸」は60%減に届かないと理解した。事務局は「上に凸」のケースとして「イノベーション技術の社会実装の効果が現れるスピードを考えると、上に凸の経路の追求が現実的」と話していた。イノベーション技術の効果は、35 年よりも遅れて現れるという意味なのか。
会議で「上に凸」「下に凸」を何度も使っていたが、なじめない。「60%以上」「以下」と言い換えて良いのではないか。もちろん以下は「60%減よりも高い目標」でも良い。
「凸」に言及したわけではないが、ある委員は「国民にどういうメッセージを出すのかが重要。
数字の意味を伝えることが大事。雑な議論をしている」と苦言を呈した。
他にも会議への不満の声が出た。別の委員は前回の会議で「野心的な目標にすべき」と意見書を提出しようとしたが、事務方から止められたと告白。「『忌憚(きたん)のない意見』はパフォーマンスじゃないかと思った。この会議は議論の場でなく、コメントを3分で述べるだけ。これで正しい政策を作れるのか」と痛烈に批判した。確かに、これだけの専門家が集まっていながら短時間に意見表明するだけではもったいない。
事務方によると、「経路(目標)の議論は次回にしてほしい」と意見書の提出を控えてもらったという。また、進め方についても「政府が案を見せて、皆さまからの意見をうかがって仕上げる」と説明した。つまり会議は、採決をとる場ではないということだ。
会議を傍聴しながら用語や会議の運営に関する課題を感じた。次回の会議では正式な目標案が示されそうだ。進め方の検討は難しいとしても、せめて言葉は分かりやすくしてほしい。
CO2最大排出国・中国の責任と二面性
2024/06/07(Fri) 文:(水)
中東の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで国連気候変動枠組み条約第28 回締約国会合(COP 28)のプレCOPが10 月30 〜 31 日に開かれ、11 月30 日からの本番の会議に向けたテーマや日程などの事前調整が行われた。COP 28 の最大テーマは、パリ協定に定める地球の気温上昇抑制の長期目標(2℃または1.5℃以下への努力)に対する締約国の対応を集約・評価、それらを踏まえた今後の対策の方向性に合意する予定だ。直近の国際情勢はイスラエルによるハマス攻撃など先行き不透明な情況もあるが、世界中で頻発した今夏の歴史的な異常気象に伴う自然災害などへの対応が改めて問われることとなる。
COP 28 会合に向けては、10 月初めに各国が提出した自主的なCO2等の削減対策を集約して進捗状況を評価する初のグローバル・ストックテイク(GST、5 年に1 回)を開催しているが、各国提出の報告書は勝手な解釈の自己主張が多く、内容も千差万別だったようだ。COPでは統合報告書として、▽ 2025 年までに世界のCO2等排出量のピークアウト、▽ 30 年までに43%削減(19 年比)、▽ 35 年までに60%削減、▽ 50 年までにCO2排出実質ゼロ――などの目標を提示しているが、全項目に言及したのは日本を含めて少なかったという。
地球環境最大危機の原因とされる世界全体のCO2総排出量は約314 億t(20 年の国連調査)。
この中で最大の排出国が断トツの中国で実に32.1%を占め、次が米国の13.6%、インド6.6%、ロシア4.9%、日本3.2%と続く。その中国は今回のGSTにおいても、「30 年にCO2排出量のピークアウト、60 年に実質ゼロ」という目標の見直しはなかったという。それどころか、相変わらず京都議定書時代に途上国代表として主張していた“先進国責任論”に固執して、とにもかくにも先進国による大幅削減が先決という論理だったようだ。
しかし、中国は現実の経済活動では一帯一路の輸出において再生可能エネルギー関連が今や半分以上、欧米や日本の再生エネ市場でも関連機器の供給で過半をシェアするなど、脱炭素化ビジネスで最も利益を受けている大国である。一方で先進国の企業には、いま以上の対策強化に対し
て「中国のためにCO2を削減しているようなものだ」という不満も出ている。不思議なのは主要国がこうした二面性に正面から議論していないことだ。
「デコ活」の推進と経済的措置の有効性
2024/03/08(Fri) 文:(水)
脱炭素につながる新たな国民運動として環境省は「デコ活」の浸透を重点的に進めている。省内には「デコ活応援隊」を設置、隊長には課長クラスを充て、副長以下4 人の隊員が自治体や個別企業・企業団体などに様々な活動を要請したり折衝役をこなす。
「デコ活」というロゴマークはCO 2 を減らす( DE ) 脱炭素(Decarbonization) と、環境に良いエコ( ECO ) の意味を含めた“ デコ” を組み合わせた造語だ。「デコ活」の政策的な狙いは2050年のカーボンニュートラルの達成と30 年のCO 2 削減目標実現を果たすための消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするというものだ。
環境省はそうした多くの企業・自治体・団体・個人に企業活動や製品・サービスに自覚的な環境配慮を促し、取り組む内容を登録・公表してもらう「デコ活宣言」も展開。デコ活応援団として経済界の主要な団体等が参画する「新国民運動官民連携協議会」も発足させ、活動方針や相互
交流などを定期的に行う。すでに9 月18 日時点で818 の企業・自治体・団体等が加盟、先導的な活動を実施しているという。
しかし、歴史的に見ると、この種の国民運動はこれまでも数多く展開された経緯があるが、ほとんどが一過性で終わり、目立った成果を上げたという事例はあまり聞かない。かつての民主党野田政権時代にエネルギーと環境問題を首相官邸詰めで担当した柿沼正明氏も、「国民運動を盛り上げるアイディアとしてはいいが、個人の努力を前提としたもので政策効果は短期限定なものになる。それよりも経済的な措置として、中小企業等が実施しようとする環境事業へのインパクトファイナンスの本格的導入など、長期的かつ構造的な対策こそ本命であるべき」と語っていた。
加えて経済的措置では買い物用プラスチックレジ袋の有料化措置が劇的に人々の行動様式を変え、今では自らバッグを用意したり、レジ袋を辞退する人が買い物客の1/3 以上はいるという。
プラ袋はたった3 〜 5 円の課金だが、見事にプラスチック全般見直しの機運を醸成した。環境省の国民運動を否定するものではないが、それと同時により困難な制度的・構造的な対策こそ急ぐべきではないだろうか。
ドラマにも太陽光発電トラブル、次世代シナリオは?
2024/03/06(Wed) 文:(M)
7月にスタートした民放ドラマのほとんどが今月、最終回を迎える。筆者は2作のドラマを毎週、見ている。これだけのめり込んだのは久しぶりだ。偶然だが、その2作とも太陽光発電をめぐるトラブルが登場する。木曜放送の「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)は、主人公が都会から移住した山村が舞台。のどかな集落だが住宅火災が相次ぐ。不審火を疑うと、太陽光発電所の建設用地買収が放火犯の動機として浮かび上がる。
日曜放送の「VIVANT」(TBS系)は、総合商社が中央アジアでの太陽光発電事業に用意した資金が海外のテロリストに渡る展開だ。メガソーラーとなると巨額が動くため、反社会勢力の資金源として描かれた。
老若男女が幅広く視聴する地上波のドラマで題材になるということは、再生可能エネルギーをめぐる事件が一般化したということか。現実の世界でも景観問題や森林破壊、土砂災害との関連性が指摘され、事業者と住民が係争になっている地域が少なくない。資金をめぐる事件や疑惑も
後を絶たない。将来の太陽光パネルの大量廃棄を心配する声もあり、太陽光発電の周辺は悲観的な情報があふれている。
逆風下ではあるが、パナソニックホールディングス(HD)は8月末、次世代太陽電池として本命視される「ペロブスカイト太陽電池」の開発を発表した。ガラス上に発電部分を作る技術を確立しており、「発電するガラス」を製造できるという。
ペロブスカイト太陽電池は材料を塗って作る構造なので、主流のシリコン系よりも製造コストを抑えられる。また薄くて軽く、シリコン系に迫る発電性能もある。発明者の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は毎年、ノーベル賞候補に名前が挙がっている。政府も開発を支援しており、パナ
ソニックHDのほか、積水化学工業や東芝、リコーなども試作や実証でしのぎを削る。
しかし実用化では中国メーカーが先行し、量産に乗り出した。日本の太陽電池メーカーは世界の首位に立ちながら、あっという間に凋落した「苦い経験」がある。
「次世代太陽電池でも敗戦」。こんなドラマが放映されないためにも政府には普及を急いでほしい。ハッピーエンドを迎えるために、メーカーも商品化を早く決断してほしい。
福一原発処理水放出で必要な互譲の精神
2024/02/19(Mon) 文:(水)
事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所のアルプス処理水の海洋放出が8月24日から始まった。放出期間はこれから30年超という長きにわたる見通しだが、原発立地の地元である双葉町、大熊町は1日も早い処理完了を強く希望しており、福島浜通り地域の復興・再生や廃炉作業への対応にとっても1000基を超える処理済み水タンクの除去は避けて通れない道だ。
頭の整理をする意味で、今回のアルプス処理水の放出に関わる要点を次に列記してみた。
▽23年度の放出計画量は約3.12m3( 水泳プール12.5個分)。1日当たりは460m3( 同0.2個分) ▽除去できない放出トリチウムの年間総量は22 兆ベクレル未満。海水で希釈して流し国の排出基準の1/40、WHO( 世界保健機関)の飲料水基準の1/7に低減 ▽処理水に対してIAEA(国際原子力機関)による問題なしの見解 ▽政府は福島県内の漁協や全漁連に放出の理解を求めたが、反対方針変わらず ▽国は風評対策や漁業振興として計800億円の基金設置 ▽政府は放出の基本方針策定以降、延べ1500回以上の国内外理解活動を実施 ▽中国は8月24日に日本水産物の全面輸入禁止を決定 ▽翌25日以降、放出水の異常値は検出されず全て検出限界値未満
こうした動きが連日にわたって報道され、さながら情報洪水そのものであり、風評被害の種をまき散らしていると言えなくもない。かつて日本は水俣病をはじめ多くの水関連の悲惨な公害を経験しているが、これほど質量ともに豊富な政府対応はなかった。
しかし放流期間の30年超はこれだけでなく、事故により発電所周辺の環境中に放出された放射性物質をとり除いた土壌が県内に中間貯蔵されており、これの最終処分地も30年以内に確保する約束がある。環境省は安全レベルまで処理した土壌の再利用を進めているが、周知の通り福島県外での集中貯蔵地確保は難航し、再利用の方も埼玉県所沢市と東京都新宿区にある新宿御苑での実施が近隣住民の反対で進んでいない。
中国政府による日本からの水産物輸入禁止措置と日本を罵倒する連日の嫌がらせ電話は、経済大国としてのメンツをかなぐり捨てた三流国そのものの姿と言えよう。いっそのこと日本政府は「こちらから水産物はもう輸出しません。その分を国内消費します」と言ってほしいものだ。我が国は欧米と違って陸続きではなく広い海洋の島国として昔から苦しい時の助け合いすなわち「互譲の精神」を大切にして、数々の苦難を乗り越えてきた。そうした心意気をもう一度咲かせたいものである。
GXも大事だが、身近な環境問題対応もおろそかにするな
2023/11/16(Thu) 文:(M)
知人からトラブルに巻き込まれたと連絡が来た。家族が所有する土地で不法投棄が見つかったという。民家から離れた林地にある遊休地であるため、めったに行く機会がなく、いつ投棄されたのか分からない。現場から数百メートル離れた工場に聞いても、不審者に心当たりがないそうだ。
警察や行政に届け出た。企業名を確認できる廃棄物もあったが、犯人の決め手とはならず、具体的な対応は決まっていない。家族に体力面の不安があるため、知人は都内の自宅から休日のたびに帰省し、解決に奔走している。当面は自費での撤去を覚悟している。
筆者も廃棄物問題の専門家に助言を求めた。まずは行政に「どうしら良いのでしょうか」と相談するべきだという。市町村によっては、周囲の環境を破壊するとの理由で撤去を行政代執行してくれる。さらなる不法投棄を防ぐため、囲いや看板の設置も勧めてくれた。
旧知の廃棄物処理業者の社長にも聞いてみた。答えはほぼ同じだったが、「似た事件がもっと増える」と衝撃的なことを言われた。転居などで管理者不在となった土地が各地にある。空き家も増えている。少しでも荒れた様子があれば、不法投棄の場所として狙われるそうだ。
また社長は、家電など小さな廃棄物の投棄が増えるとも指摘する。経済産業省によれば、家電リサイクル法に則って適切に回収された廃家電の割合は6割台(冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機の4種の合計)。特にエアコンの回収率は3割台と低い。内部の金属が高値で売れるため、不適切なルートで持ち去る業者が存在するようだ。何らかの事情で不適切なルートが途絶えると、家電の不法投棄が増加する恐れがある。
環境省の調査によると2021年度、全国で新たに107件、総量3万7000トンの不法投棄が見つかった。年1000件以上が発生してピークだった990 年代後半に比べると沈静化したが、悪質な不法投棄が後を絶たない。
気候変動に関心が向かいがちだが、廃棄物問題が解決した訳ではない。知人の件で不法投棄を身近に感じた。グリーントラスフォーメーションやサーキュラーエコノミーがもてはやされるが、政府には国民にとって身近な環境問題への対応もおろそかにしないでほしい。
現代病の熱中症に構造的対策が必要
2023/11/01(Wed) 文:(水)
熱中症で近年亡くなる人が年平均約1300 人。救急車で病院へ搬送された人が約79 万人(2008 〜
22 年)という数字を見ると、高齢となって最近心臓関連の病を得た小生にとっても決して他人ごと
ではない。
もちろん熱中症死亡数はそれだけが原因ではなく、様々な持病などによる影響も多々あると見ら
れている。年間の交通事故死者数(2022 年2610 人)や自殺者数(21 年21081 人)に較べても決し
て小さな数とは言えない。進行する地球温暖化が日常の生活環境を一変させ、加えて電気料金など
エネルギー価格の大幅アップが今の熱中症増加に拍車をかけている。
環境省は先の通常国会で気候変動適応法等を改正、「熱中症対策実行計画」の策定と「気候変動
適応計画」の一部変更を行い、今夏から地方自治体・民間事業者も巻き込み従来の熱中症対策を拡
充強化する。自治体による体制整備として「指定暑熱避難施設」の確保や熱中症弱者の見守り・声
かけ運動の強化、極端な高温発生時の対応として「熱中症特別警戒情報」の発表・周知と予防行動
の呼びかけ、暑熱避難施設への誘導など法的措置を充実させる。特別警戒アラートの発令は気温や
湿度などの条件を加味して「暑さ指数(WBGT)」の発表となるが、指数28 以上で厳重警戒、31 以
上で外出自粛だ。
この実行計画では2030 年目標として熱中症死亡者数の「現状から半減」を掲げているが、政府
の対応策は小手先の対処療法どまりであり、もっと構造的な社会経済全体を変革するような基盤的
な対応を示すべきであろう。中長期的な構造対策はさらなる温暖化進行が所与のものであるならば
なおのこと不可欠である。そのいくつかを挙げれば、▽欧米並みの長期夏季休暇制の創設、▽大都
市における植林事業の実施と道路の遮熱対策、▽街中や駅構内におけるベンチ等の新増設、▽CO
2削減対策の共有−−など々枚挙に暇がない。いずれも高齢化社会への対応とも共通するものだ。
要は現代文明の「公害」とも言える熱中症を軽んじてはいけない。その延長で言えば、神宮の森
で巨木を伐採し超高層ビルを建てる再開発事業もヒートアイランド現象を加速化させ、自然の風の
通り道を今後50 年以上にわたってブロックする温暖化に加担する構造物の出現となる。
「文明の墓場」と対照的な環境白書
2023/09/29(Fri) 文:(水)
今年も毎年この時期に恒例の「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」が環境省から公表された。国内外の環境問題の動向と現状認識、政府が講じた施策の評価とこの1年間における政策展開の全貌や、2023 年度以降に講じようとする施策などをA4版345 頁にわたって展開して
いる。
白書のキャッチフレーズは、「ネットゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の統合的な実現に向けて」。気候変動や生物多様性損失などの地球環境悪化が危機的状況にあり、環境問題の枠にとどまらず経済・社会構造のあり方を含めた一体的取組が不可欠とする。
まだ熟読したわけではないが、率直にいって無味乾燥な役所言葉の連続であり、その先を読もうという気になれない。一方で環境問題を常にフォローしている関係者にとっては、1年間における重要な記録書・データであり、そうした役割を持っていることも否定できない。
今年5月2日付け朝日新聞の文化欄に、「倉本聰が問う『文明の墓場』」という記事があった。記事はテレビドラマの名作といわれた「北の国から」などを手掛けたあの倉本聰さんがプロデュースして札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会議の環境イベントの一つ「文明の墓場」の様子を伝えたものだ。その部屋一杯に線香の匂いが漂い、廃棄された衣類や携帯電話、核廃棄物のレプリカなどがところ狭しと置かれていたという。それ以前に発行された「文藝春秋」誌で高齢者ら向けに“貧幸の勧め”を発表していた倉本さんから見れば、飽くなき便利さの追求の結果に生じるCO2の排出・
蓄積や廃棄物・ごみをどうするつもりか、誰が責任をとるのか、と言いたかったのではないか。
今回の環境白書でも、炭素中立を目指して今後10 年間で150 兆円の巨額な官民投資を市場に展開、産業構造・社会構造を変革して将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現する「GX実現に向けた基本方針」を提示している。しかし、150 兆円の投資に必要となるエネルギー量や重要鉱物資源、耐久消費財の買い替えで発生する廃棄物量などが一体どれほどになるのかは一切明示されていない。端的に言えば、依然として便利さ追求の為政であり、経済成長最優先主義なのだ。
G7広島サミットの点描と宿題
2023/08/04(Fri) 文:(水)
岸田首相が議長を務めた「G7広島サミット」は、ウクライナのゼレンスキー大統領の出席というサプライズもあって、ひときわ国際的な注目を集め5月21日閉幕した。共同声明ではロシアによるウクライナ侵攻という国際情勢の変化を反映し、▽ウクライナを引き続き支援する、▽法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化、▽核兵器のない世界という最終目標に向けた核軍縮・不拡散の取組強化――などで合意した。
会場となった広島ではG7首脳とゼレンスキー大統領らが平和記念資料館などを視察、78年前の原爆投下による一般市民などの悲惨そのものの犠牲を目の当たりにして、心のどこかに核兵器使用による地獄図を刻んだかもしれない。資料館視察ではマスコミがシャットアウトされたためか、首脳らの肉声が聞こえてこなかった。報道で気が付いたが、3日間の首脳会合やイベントなどでゼレンスキー氏の笑顔が一度も見られなかった。いま戦っている国民への思いがそうさせたのだろう。
残念だったのは、広島・長崎に原爆投下した米国のバイデン大統領から、当時の国際法にも違背していたことに対する謝罪や遺憾の表明がなかったことだ。不謹慎と言われそうだが、ここは3月のワールド・ベースボール・クラシックで、日本代表の「侍ジャパン」が前回王者の米国を大谷選手らの活躍で3対2の僅差で破って優勝したことで納得することにしよう。
共同声明はA4判にすると39頁もある長い文章だが、もちろん気候変動と生物多様性対応、エネルギーの脱炭素化推進強化が盛り込まれた。その共通認識と今後の対応は4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の集約をほぼ再度首脳レベルでも確認したものにとどまった。すなわち、パリ協定の1.5℃目標達成に向け“揺るぎない”対策強化を推進するとした。その1.5℃達成には現在の各国の削減目標見直しが必要となるが、最大排出国・中国の対策強化なしではとうてい覚束ない。共同声明ではこれまでと同様に中国に対する名指しの批判や要請を避け、「主要経済国」という言い方で、あまり刺激しない配慮を行ったという。それならば中国が加わる形にG7を「G8」に衣替えして、地球環境に責任をもった首脳会議にしたらどうだろうか。
G7環境相声明、「離見の見」に学びたい
2023/07/21(Fri) 文:(M)
室町時代の能役者、世阿弥は著書『花鏡』で、悪い演者は「我見」でしか見ないが、良い演者は自分を客観視する「離見の見(けん)」を持っていると述べている。自分がどう見られているかを意識しなさいという教えとして継承されている。
先進7カ国気候・エネルギー・環境相会合が4月15〜16日、札幌市で開かれた。日本にとっては自慢の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策が海外からどう見られているのか、知る機会だったのではないだろうか。
水素やアンモニアを燃料にした発電もGXの目玉。共同声明を採択した直後の記者会見で、西村康稔経済産業相は「ゼロ・エミッション火力発電として活用することを確認できた」と胸を張った。しかし、共同声明では「排出削減が困難な産業において、効果的であれば使用すべきである」と注文が付き、「電力部門で水素やアンモニアの使用を検討している国があることにも留意する」の書きぶりにとどまった。西村経産相の発言とはトーンが違う。
環境団体は水素やアンモニアの混焼を「火力発電の延命」と批判している。また、海外で製造した水素やアンモニアの輸送に伴う二酸化炭素(CO2)排出も含めるとゼロ・エミッション(排出ゼロ)とは言えるのか疑わしく、共同声明にも輸出についての懸念が書き込まれた。
議論の詳細は分からないが、他国が反対する中、日本が粘って水素とアンモニアの利用を共同声明に入れたなら、その事も明らかにしてほしい。完全に合意されたと信じた企業がゼロ・エミッション火力発電を開発しても、海外に売り込めない事態が起きてしまう。他の先進国が納得していないという情報があれば、企業は開発と並行して懸念を払拭するように他国を説明する時間を持てる。
自動車の目標についても「2035年までに保有車両からの排出量を2000年比半減する可能性に留意する」となっており、決定事項ではない。それにもかかわらず日本の市場関係者に、現状の技術を延長したエンジン車が認められたような誤ったメッセージを与えてはいけない。
国民や企業、自治体関係者は共同声明の原文を読み、「離見の見」で日本を客観視し、海外の潮流を確認しながら脱炭素を進めてほしい。多様な道筋はあるが、誤った道を選ばないように。
うちのカミさんにも分かる言葉で
2023/06/30(Fri) 文:(滝)
「GXを実現するための法案って言ってたけど、GXってなんのこと?」。朝食の納豆をかき混ぜていたらカミさんから聞かれた。NHKニュースを聞きかじったようだ。
「GXはグリーントランスフォーメーションの略だったかな。地球温暖化対策とエネルギー確保の同時解決を目的に、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブなどの手法が使われる……」。フンという顔をされ、「分かんないわよ。そんなカタカナ語なんて理解できるわけないじゃない。アーア、聞いて損した」
久しぶりに環境やエネルギーの世界に接すると、カタカナの専門用語に“異国の地”に迷い込んだような気になってしまった。インターナルカーボンプライシング(ICP)活用ガイドライン:環境省、ネイチャーポジティブ(NP)の実現:同、クライメート・イノベーション・ファイナンス推進事業:経産省、グリーンイノベーション(GI)プロジェクト部会:同、サーキュラー・エコノミー(CE)情報流通プラットフォーム(PF):同、バイオトランスフォーメーション(BX)戦略:経団連、カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画策定マニュアル:国交省……などなどなど。
大昔の話になるが、毎日新聞社に入り赴任した支局のデスクから言われたのが「記事は中学生でも分かるように書け」だった。特ダネや専門性の高い記事をと意気込んでいた当時は「なんで」とも思ったが、記者を続けているうちに「平易に分かりやすく書く難しさ」が身に染みて分かった。十のことをやさしく書くには百のことが分かっていないと書けない、逆に専門用語や業界語を使えば分かっていなくてもそれらしい記事は出せた。
少し昔、ある官庁の人と飲んでいる時に言われた。「効率的に議論したり、ペーパーを仕上げるには専門用語は必要になってくる。欧米や国際機関とツーカーの議論をするにもカタカナ語は有効なんだよ」。でも酔いが回ると「議員さんや市民団体から余計なことを言われなくて済むしね」
パソコンやITが今も苦手なのは、初めて聞くカタカナ語も障害になった気がしている。温暖化対策、生物多様性、エネルギー問題など幅広い国民の議論や理解が不可欠な政策については、専門家だけでなくうちのカミさんにも分かるような言葉を使ってほしい。
“安全の砦”原子力規制委の魂は抜かれてしまったのか
2023/06/20(Tue) 文:(滝)
原子力規制委員会委員長代理(2012〜14年)だった島崎邦彦さんが3月末、福島原発事故を検証した『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』(青志社)を出版した。「大津波の警告が出されようとしていたが、(費用がかかる)津波対策を取りたくない原子力ムラの画策で隠された」と多くの資料や証言に基づいて告発している。
福島原発事故後、「原発の安全をチェックする原子力安全・保安院が、推進する資源エネルギー庁と同じ経済産業省内にあったのが問題」との反省から、独立性の高い3条委員会として規制委が発足し、その事務局が規制庁だ。つまり、行政とは独立した立場から原発の安全を守る「最後の砦」が使命だ。
岸田政権が原発推進に大きく舵をきったことに対する評価は人それぞれだろう。朝日新聞社の世論調査で、停止している原発の再稼働賛成が51%と震災後初めて過半数を超えた(反対は42%)。また60年超運転、処理済み水の海洋放出についても賛成が反対を上回った。大震災から12年経っての記憶の風化や電気代高騰から、国民の意識の風向きが変わったのは事実だろう。
残念なのは、唯々諾々と追随する規制委の動きだ。2月10日閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の柱の一つが原発活用であり、そのための60年超運転ともいえる。規制委は同月13日に異例の多数決で60年超運転を容認する決定を行った。5人の委員のうち一人は「科学的・技術的な知見に基づいて人と環境を守ることが使命。安全側への改変といえない」と反対を貫き、他の委員からも「締切りを守らなければいけない感じでせかされた」「こういう形で決められることに違和感を覚える」などの発言があったが押し切られた。60年超運転を可能にする改正法案の閣議決定(同月28日)の日程ありきだったとしか思えない。
規制庁のトップ3人が経産省出身者で占められたこと、そして規制庁と資源エネルギー庁がこの問題をめぐって7回の非公表面談をしたことも明らかになっている。「仏作って魂入れず」ということわざがあるが、3.11を教訓につくられた「安全最優先の魂」が抜かれてしまったかのようだ。
元地震学会会長でもある島崎さんは、同書でこう警告している。「そして、いまも状況は変わっていない」
真の復興妨げる「思遣之心」の欠落
2023/05/26(Fri) 文:(水)
この3月、東日本大震災(震度7、M9.0)発生から12年目を迎え、東北育ちの小生としては様々な思いが交錯した。一見、12年も経って東日本沿岸部の高さ8m以上もあるコンクリート製防潮堤などのインフラが整備され、防災の観点からは30〜50年に一度の大津波から何とか地域住民をブロックできるかもしれない。その一方で多くの海域で雄大の海の景色が目前から消え、なんの潤いのない海外線に変わり果てたところも少なくない。
タンクに溜まり続けている処理済み水の放流問題もギリギリの状況が続く。しかもこれから30年以上は続く世界でも最大級の廃炉作業の実質始まりであり、放流問題が解決しない限り前に進めない。権威ある国際機関や政府が全く問題ないと言っても「安心」や「風評」をゼロにすることはできない。そこで提案だが、放流当初2〜3年程度はチョロチョロ水で流しそれを関係者の了解の下に徐々に増やし利害関係者・消費者・地域住民などが定期的にウオッチする「国民海洋保全賢人会議」のような独立組織をつくったらどうか。
もう一つ3.11の原発事故では周辺市町村のエリアが放射性物質に汚染され、その後に帰還して生活するための除染作業によって生じた残土等が福島県内の中間貯蔵施設や県外に多く残置されている。事業を受け持つ環境省は人の健康に問題ない除去土壌を公共事業等に再利用する計画を進めており、同省が敷地管理する埼玉県所沢市の環境調査研修所と東京新宿の新宿御苑管理事務所でその土壌の再利用を関係自治会に説明したところ、迷惑施設などとして反対されている。よく聞く話で近くにある公園施設で子供の騒ぎ声がうるさいから閉鎖しろとか新設するな、などの身勝手な要求に共通する現象だ。
当時の大蔵省から環境省に出向、事務次官を最後にその後神奈川県知事を2期務め上げた岡崎洋氏(故人、2018年死去)の遺稿集「行くに径(こみち)に由らず」によれば、どのような経済社会体制の如何を問わず▽個人の他に対する配慮の欠如▽野放図な経済発展・開発推進の優先を是認する社会の風潮――などが、社会への「思遺之心」(おもいやりのこころ)を消滅させる要因と指摘する。我われはもう少し人間生活の原点を思い起こすべきではなかろうか。
不十分な地方との意思疎通、カタカナ語乱用も一因
2023/05/19(Fri) 文:(M)
東日本のある県の職員は、環境省が2022年度に始めた脱炭素先行地域を「自分たちで事業内容を決められるので、使いやすい」と評価していた。県が申請に協力した市が、脱炭素先行地域に選ばれた。「県内の他の市町村も手をあげてほしい」と広がりを期待する。
一方で「再エネ促進区域」には関心がない。再エネ促進区域は、市町村が再生エネ事業に適した場所を選定する。太陽光や風力発電事業が住民とトラブルになる事態が起きており、行政が関与することで合意形成を図りやすくしようと政府が22年4月施行の改正地球温暖化対策推進法(温対法)で創設した。
県職員は市町村の本音を代弁し、「行政側からすすんで私有地を促進区域にすることはありえない。発電事業ができる公有地もない。あるとしたら林地だが、わざわざ樹木を伐採することもできない」と語る。すべてが国の思惑通りとはいかないようだ。
また、西日本のある県の職員はカタカナ用語をぼやいていた。「前政権はカーボンニュートラルと言っていた。それが現政権はクリーンエネルギー戦略と言ったと思ったら、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針が出てきた」とカタカナの変遷を並べる。クリーンエネルギー戦略は“グリーン(緑)”ではなく、“クリーン(きれい)”だったので「紛らわしくて県議会議員が混乱している」と困惑する。
他にも「規制があった方がやりやすい」と注文をつける。地元企業向けセミナーを開くと、「脱炭素は良いことだと理解したけど、取り組まないとダメなのか」と質問されたという。二酸化炭素(CO2)排出量削減は規制ではないので、行政としては強制ができない。「森林整備をしてJ−クレジットを創出しているが、意欲的な企業しか買ってくれない。CO2削減が規制的なものであれば、買い手が付いて森林整備に資金が回る」と期待する。カタカナ言葉の連発よりも、現場の要望にあった施策を望む。
国も自治体の声を聞きながら制度を作ってきたはずだ。しかし、運用すると課題が出てきて当然なので、柔軟な修正が求められる。30年度の13年度比46%削減に向けた時間がない。国と地方は意思疎通をして、実効性のある施策を作ってほしい。
脱炭素で頑張る企業が報われる仕組みを!
2023/04/07(Fri) 文:(水)
『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など、数々のヒット作を手がけた映画プロデューサーの鈴木敏夫さんは著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書刊)で、あえて雑誌の部数を落としたエピソードを明かしている。
徳間書店に勤務していた当時、担当した雑誌がヒットし、みるみる部数が増えた。しかし、周囲からのプレッシャーが高くなり、数字を追って誌面から自由がなくなったという。そこで鈴木さんはアニメ作家の宮崎駿さんの特集を組んだ。まだ知名度は低かったが「本当にやりたい企画」だったという。部数は半減したが、自由を取り戻し「みんな雑誌を作ることを楽しみ始めた」と回想する。
最近、似たような話を聞いた。国産材を加工した環境配慮商品を企画し、事務用品専門のインターネット販売サイトで売り始めた。しばらくするとサイト運営会社から連絡があり、供給を増やしてほしいと頼まれた。値下げを求められると覚悟していたが、「価格を下げると環境価値が伝わらなくなる」とキッパリと言われたという。商品は値下げが売上高を伸ばす一つの手段だが、サイト運営会社は環境価値にこだわった。雑誌は面白い誌面があってはじめて部数を競う。環境配慮商品は環境価値で消費者に選ばれるのであって、本来なら価格での勝負は後回しのはずだ。
しかし、まだまだコストが優先される。ある会議で再生可能エネルギー電気の購入や、売上高の一部を自然保護活動に寄付する中小企業を話題にしていると、ある中小企業の経営者が「再生エネなんか使って余裕があると思われたくない。取引先からは寄付できるならコストを下げろと言われる」と発言した。これも現実なのだろう。
いま、脱炭素に意欲的な中小企業は社屋に太陽光パネルを取り付け、営業車を電気自動車(EV)に代えるなど、環境配慮商品を購入している。どれも今は高額だが、太陽光パネルやEVは年々、価格が低下するので後から脱炭素に取り組んだ企業ほど得する。
コストがかかっても頑張った企業が報われる仕組みが、カーボンプライシングだ。CO2の排出を減らすほど得になるからだ。しかし、日本の排出量取引は自由参加、炭素賦課金の対象も一部企業となった。政府には先行して頑張る企業が報われる仕組みも考えて欲しい。
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