プラスチック汚染対策条約は2022年に採択された国連環境総会(UNEA)決議5/14に基づき加盟国が交渉中で、2040年までに世界的なプラスチック汚染を終わらせる法的拘束力のある枠組みの確立を目指す。プラの生産から廃棄までの全ライフサイクルを対象とし、廃棄物取引、リサイクル(R)、化学物質添加物に関する規定が含まれる。
国連決議では、「2025年末までに法的拘束力のある国際条約を策定する」ことが明記されている。つまり25年末予定の最終案合意は、2040年目標達成のための「スタートライン」となる。
ケミカルRに多くの厳格基準を適用方針
「ケミカルリサイクル」とは、熱分解・ガス化・脱重合などの手法でプラ廃棄物を単量体や化学原料に分解するプロセスを指す。機械的リサイクルと異なり、汚染・混合プラの処理が可能で、バージン品質の材料を生産する潜在性を持つ。ケミカルRは検討中のプラ汚染対策条約において条件付きで容認されるが、その環境保全性・透明性・トレーサビリティが精査されている。持続可能な解決策と認められるには厳格な基準を満たす必要がある。
プラ汚染対策条約草案による現時点のケミカル関連の主な規定内容は次の内容となっている。
▽条件付き受容…ケミカルRは全面禁止されないが、環境性能基準と透明性要件を満たす必要
▽トレーサビリティと検証…関係者はケミカルリサイクル施設が以下を満たすことを確保すべきである…○有害な排出物や有毒な副生成物の回避、○プラ過剰生産の継続を可能にする抜け穴とならない、○国内および国際的な枠組みのもとで監査と報告が行われる
▽廃棄物貿易制限…○適切なインフラが整っていない国へのケミカルリサイクル目的のプラ廃棄物輸出は推奨されないか、制限される可能性
▽循環性基準…○真にクローズドループR(廃棄物を再利用可能なプラへ転換)に貢献するプロセスが優先
▽ケミカルRはプラ汚染対策条約における解決策の一部となり得るが、以下の条件を満たす場合に限られる…○汚染の削減が実証されている、○透明性・安全性を確保した運用がなされている、○循環型経済の目標を支援している
千葉大青木准教授、プラ原料を肥料に再利用
千葉大学大学院工学研究院の青木大輔准教授はJST(科学技術振興機構)の助成を受けて、ケミカルRによるプラの肥料転換を研究している。要点を次に示す。
カーボネート結合からなる糖由来のプラ(ポリカーボネート)をアンモニアに分解することで生成する尿素と糖由来の化合物が、実際に植物の成長促進につながることを実験によって証明し、「プラスチックを肥料に変換するリサイクルシステム」を実証した。
今回、青木准教授が実証したポリカーボネートのアンモニア分解反応による肥料の生成は、高価な触媒が必要なく、簡便な操作で行えるため、工業化への期待が大きい。この新たな形態のケミカルRは、〇バイオマス由来プラの循環利用を可能にする、〇廃棄物を肥料などの農業資源に転換できるので炭素循環と窒素循環の両立が期待される、〇焼却や埋立てに頼らない環境負荷の低いリサイクル手法――と評価される
この研究で実証されたリサイクルシステムは、出発原料であるバイオマス資源のイソソルビドを再生するだけでなく、植物の成長を促進する尿素をつくり出す。欧州の肥料産業団体(Fertilizers Europe)によると、アンモニア合成法の発明から1 世紀以上が経った今日でも、尿素に代表される窒素肥料によって生産された食料は世界人口の50%を養っているという。このリサイクルシステムが、「プラスチックの廃棄問題」と「人口増加による食糧問題」を同時に解決する革新的なシステムへと昇華されることが期待される。
(以下については本誌2851をご参照ください)
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