GXも大事だが、身近な環境問題対応もおろそかにするな
2023/11/16(Thu)
文:(M)
知人からトラブルに巻き込まれたと連絡が来た。家族が所有する土地で不法投棄が見つかったという。民家から離れた林地にある遊休地であるため、めったに行く機会がなく、いつ投棄されたのか分からない。現場から数百メートル離れた工場に聞いても、不審者に心当たりがないそうだ。
警察や行政に届け出た。企業名を確認できる廃棄物もあったが、犯人の決め手とはならず、具体的な対応は決まっていない。家族に体力面の不安があるため、知人は都内の自宅から休日のたびに帰省し、解決に奔走している。当面は自費での撤去を覚悟している。
筆者も廃棄物問題の専門家に助言を求めた。まずは行政に「どうしら良いのでしょうか」と相談するべきだという。市町村によっては、周囲の環境を破壊するとの理由で撤去を行政代執行してくれる。さらなる不法投棄を防ぐため、囲いや看板の設置も勧めてくれた。
旧知の廃棄物処理業者の社長にも聞いてみた。答えはほぼ同じだったが、「似た事件がもっと増える」と衝撃的なことを言われた。転居などで管理者不在となった土地が各地にある。空き家も増えている。少しでも荒れた様子があれば、不法投棄の場所として狙われるそうだ。
また社長は、家電など小さな廃棄物の投棄が増えるとも指摘する。経済産業省によれば、家電リサイクル法に則って適切に回収された廃家電の割合は6割台(冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機の4種の合計)。特にエアコンの回収率は3割台と低い。内部の金属が高値で売れるため、不適切なルートで持ち去る業者が存在するようだ。何らかの事情で不適切なルートが途絶えると、家電の不法投棄が増加する恐れがある。
環境省の調査によると2021年度、全国で新たに107件、総量3万7000トンの不法投棄が見つかった。年1000件以上が発生してピークだった990 年代後半に比べると沈静化したが、悪質な不法投棄が後を絶たない。
気候変動に関心が向かいがちだが、廃棄物問題が解決した訳ではない。知人の件で不法投棄を身近に感じた。グリーントラスフォーメーションやサーキュラーエコノミーがもてはやされるが、政府には国民にとって身近な環境問題への対応もおろそかにしないでほしい。
現代病の熱中症に構造的対策が必要
2023/11/01(Wed)
文:(水)
熱中症で近年亡くなる人が年平均約1300 人。救急車で病院へ搬送された人が約79 万人(2008 〜
22 年)という数字を見ると、高齢となって最近心臓関連の病を得た小生にとっても決して他人ごと
ではない。
もちろん熱中症死亡数はそれだけが原因ではなく、様々な持病などによる影響も多々あると見ら
れている。年間の交通事故死者数(2022 年2610 人)や自殺者数(21 年21081 人)に較べても決し
て小さな数とは言えない。進行する地球温暖化が日常の生活環境を一変させ、加えて電気料金など
エネルギー価格の大幅アップが今の熱中症増加に拍車をかけている。
環境省は先の通常国会で気候変動適応法等を改正、「熱中症対策実行計画」の策定と「気候変動
適応計画」の一部変更を行い、今夏から地方自治体・民間事業者も巻き込み従来の熱中症対策を拡
充強化する。自治体による体制整備として「指定暑熱避難施設」の確保や熱中症弱者の見守り・声
かけ運動の強化、極端な高温発生時の対応として「熱中症特別警戒情報」の発表・周知と予防行動
の呼びかけ、暑熱避難施設への誘導など法的措置を充実させる。特別警戒アラートの発令は気温や
湿度などの条件を加味して「暑さ指数(WBGT)」の発表となるが、指数28 以上で厳重警戒、31 以
上で外出自粛だ。
この実行計画では2030 年目標として熱中症死亡者数の「現状から半減」を掲げているが、政府
の対応策は小手先の対処療法どまりであり、もっと構造的な社会経済全体を変革するような基盤的
な対応を示すべきであろう。中長期的な構造対策はさらなる温暖化進行が所与のものであるならば
なおのこと不可欠である。そのいくつかを挙げれば、▽欧米並みの長期夏季休暇制の創設、▽大都
市における植林事業の実施と道路の遮熱対策、▽街中や駅構内におけるベンチ等の新増設、▽CO
2削減対策の共有−−など々枚挙に暇がない。いずれも高齢化社会への対応とも共通するものだ。
要は現代文明の「公害」とも言える熱中症を軽んじてはいけない。その延長で言えば、神宮の森
で巨木を伐採し超高層ビルを建てる再開発事業もヒートアイランド現象を加速化させ、自然の風の
通り道を今後50 年以上にわたってブロックする温暖化に加担する構造物の出現となる。
「文明の墓場」と対照的な環境白書
2023/09/29(Fri)
文:(水)
今年も毎年この時期に恒例の「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」が環境省から公表された。国内外の環境問題の動向と現状認識、政府が講じた施策の評価とこの1年間における政策展開の全貌や、2023 年度以降に講じようとする施策などをA4版345 頁にわたって展開して
いる。
白書のキャッチフレーズは、「ネットゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の統合的な実現に向けて」。気候変動や生物多様性損失などの地球環境悪化が危機的状況にあり、環境問題の枠にとどまらず経済・社会構造のあり方を含めた一体的取組が不可欠とする。
まだ熟読したわけではないが、率直にいって無味乾燥な役所言葉の連続であり、その先を読もうという気になれない。一方で環境問題を常にフォローしている関係者にとっては、1年間における重要な記録書・データであり、そうした役割を持っていることも否定できない。
今年5月2日付け朝日新聞の文化欄に、「倉本聰が問う『文明の墓場』」という記事があった。記事はテレビドラマの名作といわれた「北の国から」などを手掛けたあの倉本聰さんがプロデュースして札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会議の環境イベントの一つ「文明の墓場」の様子を伝えたものだ。その部屋一杯に線香の匂いが漂い、廃棄された衣類や携帯電話、核廃棄物のレプリカなどがところ狭しと置かれていたという。それ以前に発行された「文藝春秋」誌で高齢者ら向けに“貧幸の勧め”を発表していた倉本さんから見れば、飽くなき便利さの追求の結果に生じるCO2の排出・
蓄積や廃棄物・ごみをどうするつもりか、誰が責任をとるのか、と言いたかったのではないか。
今回の環境白書でも、炭素中立を目指して今後10 年間で150 兆円の巨額な官民投資を市場に展開、産業構造・社会構造を変革して将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現する「GX実現に向けた基本方針」を提示している。しかし、150 兆円の投資に必要となるエネルギー量や重要鉱物資源、耐久消費財の買い替えで発生する廃棄物量などが一体どれほどになるのかは一切明示されていない。端的に言えば、依然として便利さ追求の為政であり、経済成長最優先主義なのだ。
【これより古い今月のキーワード】