G7広島サミットの点描と宿題
2023/08/04(Fri)
文:(水)
岸田首相が議長を務めた「G7広島サミット」は、ウクライナのゼレンスキー大統領の出席というサプライズもあって、ひときわ国際的な注目を集め5月21日閉幕した。共同声明ではロシアによるウクライナ侵攻という国際情勢の変化を反映し、▽ウクライナを引き続き支援する、▽法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化、▽核兵器のない世界という最終目標に向けた核軍縮・不拡散の取組強化――などで合意した。
会場となった広島ではG7首脳とゼレンスキー大統領らが平和記念資料館などを視察、78年前の原爆投下による一般市民などの悲惨そのものの犠牲を目の当たりにして、心のどこかに核兵器使用による地獄図を刻んだかもしれない。資料館視察ではマスコミがシャットアウトされたためか、首脳らの肉声が聞こえてこなかった。報道で気が付いたが、3日間の首脳会合やイベントなどでゼレンスキー氏の笑顔が一度も見られなかった。いま戦っている国民への思いがそうさせたのだろう。
残念だったのは、広島・長崎に原爆投下した米国のバイデン大統領から、当時の国際法にも違背していたことに対する謝罪や遺憾の表明がなかったことだ。不謹慎と言われそうだが、ここは3月のワールド・ベースボール・クラシックで、日本代表の「侍ジャパン」が前回王者の米国を大谷選手らの活躍で3対2の僅差で破って優勝したことで納得することにしよう。
共同声明はA4判にすると39頁もある長い文章だが、もちろん気候変動と生物多様性対応、エネルギーの脱炭素化推進強化が盛り込まれた。その共通認識と今後の対応は4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の集約をほぼ再度首脳レベルでも確認したものにとどまった。すなわち、パリ協定の1.5℃目標達成に向け“揺るぎない”対策強化を推進するとした。その1.5℃達成には現在の各国の削減目標見直しが必要となるが、最大排出国・中国の対策強化なしではとうてい覚束ない。共同声明ではこれまでと同様に中国に対する名指しの批判や要請を避け、「主要経済国」という言い方で、あまり刺激しない配慮を行ったという。それならば中国が加わる形にG7を「G8」に衣替えして、地球環境に責任をもった首脳会議にしたらどうだろうか。
G7環境相声明、「離見の見」に学びたい
2023/07/21(Fri)
文:(M)
室町時代の能役者、世阿弥は著書『花鏡』で、悪い演者は「我見」でしか見ないが、良い演者は自分を客観視する「離見の見(けん)」を持っていると述べている。自分がどう見られているかを意識しなさいという教えとして継承されている。
先進7カ国気候・エネルギー・環境相会合が4月15〜16日、札幌市で開かれた。日本にとっては自慢の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策が海外からどう見られているのか、知る機会だったのではないだろうか。
水素やアンモニアを燃料にした発電もGXの目玉。共同声明を採択した直後の記者会見で、西村康稔経済産業相は「ゼロ・エミッション火力発電として活用することを確認できた」と胸を張った。しかし、共同声明では「排出削減が困難な産業において、効果的であれば使用すべきである」と注文が付き、「電力部門で水素やアンモニアの使用を検討している国があることにも留意する」の書きぶりにとどまった。西村経産相の発言とはトーンが違う。
環境団体は水素やアンモニアの混焼を「火力発電の延命」と批判している。また、海外で製造した水素やアンモニアの輸送に伴う二酸化炭素(CO2)排出も含めるとゼロ・エミッション(排出ゼロ)とは言えるのか疑わしく、共同声明にも輸出についての懸念が書き込まれた。
議論の詳細は分からないが、他国が反対する中、日本が粘って水素とアンモニアの利用を共同声明に入れたなら、その事も明らかにしてほしい。完全に合意されたと信じた企業がゼロ・エミッション火力発電を開発しても、海外に売り込めない事態が起きてしまう。他の先進国が納得していないという情報があれば、企業は開発と並行して懸念を払拭するように他国を説明する時間を持てる。
自動車の目標についても「2035年までに保有車両からの排出量を2000年比半減する可能性に留意する」となっており、決定事項ではない。それにもかかわらず日本の市場関係者に、現状の技術を延長したエンジン車が認められたような誤ったメッセージを与えてはいけない。
国民や企業、自治体関係者は共同声明の原文を読み、「離見の見」で日本を客観視し、海外の潮流を確認しながら脱炭素を進めてほしい。多様な道筋はあるが、誤った道を選ばないように。
うちのカミさんにも分かる言葉で
2023/06/30(Fri)
文:(滝)
「GXを実現するための法案って言ってたけど、GXってなんのこと?」。朝食の納豆をかき混ぜていたらカミさんから聞かれた。NHKニュースを聞きかじったようだ。
「GXはグリーントランスフォーメーションの略だったかな。地球温暖化対策とエネルギー確保の同時解決を目的に、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブなどの手法が使われる……」。フンという顔をされ、「分かんないわよ。そんなカタカナ語なんて理解できるわけないじゃない。アーア、聞いて損した」
久しぶりに環境やエネルギーの世界に接すると、カタカナの専門用語に“異国の地”に迷い込んだような気になってしまった。インターナルカーボンプライシング(ICP)活用ガイドライン:環境省、ネイチャーポジティブ(NP)の実現:同、クライメート・イノベーション・ファイナンス推進事業:経産省、グリーンイノベーション(GI)プロジェクト部会:同、サーキュラー・エコノミー(CE)情報流通プラットフォーム(PF):同、バイオトランスフォーメーション(BX)戦略:経団連、カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画策定マニュアル:国交省……などなどなど。
大昔の話になるが、毎日新聞社に入り赴任した支局のデスクから言われたのが「記事は中学生でも分かるように書け」だった。特ダネや専門性の高い記事をと意気込んでいた当時は「なんで」とも思ったが、記者を続けているうちに「平易に分かりやすく書く難しさ」が身に染みて分かった。十のことをやさしく書くには百のことが分かっていないと書けない、逆に専門用語や業界語を使えば分かっていなくてもそれらしい記事は出せた。
少し昔、ある官庁の人と飲んでいる時に言われた。「効率的に議論したり、ペーパーを仕上げるには専門用語は必要になってくる。欧米や国際機関とツーカーの議論をするにもカタカナ語は有効なんだよ」。でも酔いが回ると「議員さんや市民団体から余計なことを言われなくて済むしね」
パソコンやITが今も苦手なのは、初めて聞くカタカナ語も障害になった気がしている。温暖化対策、生物多様性、エネルギー問題など幅広い国民の議論や理解が不可欠な政策については、専門家だけでなくうちのカミさんにも分かるような言葉を使ってほしい。
【これより古い今月のキーワード】