今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

  ノーベル賞、来年はペロブスカイト太陽電池に期待
2018/10/16(Tue) 文:(山)

 今月初旬にノーベル賞の自然科学3賞が発表された。そのうち生理学・医学賞が京都大学高等研究員の本庶佑特別教授(76歳)らに授与されることが決まった。受賞理由は「免疫細胞制御分子の発見とがん治療への展開」。本庶さんはPD−1という免疫の働きにブレーキをかける分子を発見、がん細胞を攻撃する免疫の働きを活発にし、腫瘍の増殖や転移を抑えることに成功した。この研究が小野薬品工業のオプジーボ開発につながった。
残念ながら日本人の物理、化学賞の受賞者はなかった。でも来年以降の受賞が期待されている日本人研究者は少なくない。なかでもエネルギー関連で、有望視されているのが桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(65歳)である。宮坂さんは「効率的なエネルギー変換を達成するためのペロブスカイト材料の発見と応用」、つまりペロブスカイト材料が太陽電池に応用できることを見い出した。
 ペロブスカイトは灰チタン石(CaTiO3)という鉱石で、これと同じ結晶構造をペロブスカイト構造と呼ぶ。宮坂さんは2009年に、この結晶構造が太陽電池に適していることを見い出し、実際に製作した。変換効率は当初3%台だったが、世界中の研究者が着目して研究が進み、10年足らずで20%台を実現し、シリコン太陽電池に近づきつつある。
 材料費が安く製造プロセスがシンプルで、シリコン結晶に比べて低コスト、印刷のように基板に塗るだけなので、ビルや電車の窓、曲面のある車などにも塗布できる。このため、オフィスの節電や電気自動車などへの応用が期待される。課題だった耐久性も解決の突破口が見え、実用化へのハードルが下がった。最近ではインクジェット法によるペロブスカイト層の低温成膜に成功したと新聞で報じられている。一般的な樹脂基板の耐熱温度である150℃の条件で成膜し、インクジェット法では世界最高のエネルギー変換効率13.3%超を達成した。折り曲げ可能な太陽電池の実用化が視野に入ってきた。
 今後、効率向上と長期間の耐久性維持が実現すれば、シリコン太陽電池にとってかわることも夢ではない。来年は地球温暖化の原因であるCO2を排出しない低コストの発電装置を開発した宮坂さんのノーベル賞受賞を期待したい。




パリ協定−日本は環境技術で存在感を
2018/10/02(Tue) 文:(一)

 12月にポーランドで開かれる国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が迫り、2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」のルールづくりが佳境を迎えている。15年末のCOP21で採択されたパリ協定は、翌16年11月に1年足らずで発効した。準備作業が追いつかず2年後のCOP24までに、検証や報告などの詳細な運用ルールを策定することが決められていた。
 パリ協定は先進国に温室効果ガス排出削減を義務づけた京都議定書に代わる国際条約。各国が自主的に温室効果ガスの排出削減目標を策定し、5年ごとに見直して取り組みを徹底するスキームで、平均気温の上昇を産業革命前に比べ2℃未満に抑えるため、温室効果ガスの排出量を今世紀後半に実質ゼロとする目標を掲げる。
 だが、採択時から総論賛成・各論反対の色彩が強かった。途上国はルールづくりに際して資金支援の増額を担保する仕組みを求め、長年にわたり先進国が大量の温室効果ガスを排出し続け、気候変動による海面上昇(高潮)などで生じた損失・被害への補償問題もくすぶる。9月上旬に草案作成のため、タイで事務方による最後の準備会合が開かれたが両者間の溝は埋まらず、具体的な中身はCOP24での政治決着に委ねられた。
 日本は国際協力で環境技術・制度を移転するだけでなく、途上国との協働により新市場創出とライフスタイルの変革をもたらす「コ・イノベーション」を標榜する。経済成長していく途上国の温室効果ガス排出量を、いかに抑えるかが脱炭素社会実現のカギを握るのは確か。日本にとって国際協力を新たな経済成長に結びつける機会にもなる。環境省はこれまで推進してきた地熱発電に加え、各国の状況に合わせて廃棄物発電や熱電併給システム、洋上風力発電などの再生可能エネルギーを中心としたインフラ投資拡大を挙げる。
 昨年、パリ協定からの離脱を表明したトランプ米大統領のパフォーマンスは相変わらずだが、国際社会は平静を保っている。“地獄の沙汰もカネ次第”ということわざはあるが、日本は環境技術で世界に存在感を示したい。




わが国初の「ブラックアウト」発生
2018/09/21(Fri) 文:(水)

 小説の世界だけかと思っていた「ブラックアウト」がわが国で初めて発生した。今月6日の北海道胆振地方を震源とする震度7の地震が引き金となって、大主力電源の北海道電力・苫東厚真火力発電所(出力計165万kW)がトリップ、道全域の295万戸が約1日半一斉停電となった。昭和20年代に現在の10大手電力会社体制になって以来、これだけ広域的に事前予告なしに大停電となったのは初めての経験だ。
 「ブラックアウト」というタイトルの本が数年前に電力関係者の間で話題になったことがある。中身は某国の工作員がわが国に決定的な打撃を与えるため、柏崎刈羽原発近くの送電鉄塔によじ登ってダイナマイトで破壊、大停電を発生させて首都圏に経済的・社会的混乱をおこして、自らの目的を成就するという内容だった。
 わが国は常々、電力の安定供給を最優先政策として掲げ、大停電の確率は欧米とは違って10年に一度位であり、それだけ電力供給の品質が高いネットワークが築かれている、と経済産業省は今日まで胸を張っていた。あの東日本大地震+福島第一原発事故においても、計画停電はされたが突然のブラックアウトはなかった。今回は想定外の地震が大規模発電所を直撃したとはいえ、本当に防げなかったのか十分な調査と検証が必要だ。そうでないと再度起こる可能性がある。
 今回の大停電を起こした直接原因は、北海道の当時の需要ピーク約380万kWのほぼ半分を賄っていた苫東厚真が地震の衝撃でボイラー蒸気漏れや火災をおこしたことだが、唯一の主力電源がこんなにも脆いものなのか。きちっとしたメンテナンスをやっていたのかどうか。大手電力は近年の激しい電力間競争を勝ち抜くため、不要不急のコスト削減、特に送電系統設備や発電所機器のリニューアルなど修繕費の先送り措置が顕著になっている。欧米式の競争至上主義の導入が本来の公益事業という役割を毀損していないのかどうか。
 もう一つは集中大規模電源供給方式の再検討である。これだけ大量の再生可能エネルギー導入が進んでいるにもかかわらずリスクの高い一点供給方式がとられ、分散型電源との機能分担が未だにできていないことだ。原発という大電源の扱いも含めて早急にあるべき姿の提示と議論が必要といえよう。



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