今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

辻褄が合わない小池知事の気候変動対策
2022/06/30(Thu) 文:(水)

 小池東京都知事が一枚看板とする「カーボンハーフ」(2030年までに都内のCO2排出量を50%削減)方針の具体策として、「都民の健康と安全を確保する条例」を改正、一定規模以上の建築物および住宅等の新築供給事業者を対象に、太陽光発電(PV)等の再生可能エネルギーを設置義務化する方針という。PVの新築住宅義務化方針は住宅の所有者等に義務付けるものではないが、コストアップによってウサギ小屋同然と揶揄される若年層等の住宅取得の困難化や費用の増大につながるという批判も出され、議論を呼んでいる。
 この問題を取り上げた6月12日付け「夕刊フジ」の記事によると、同紙が緊急アンケートを実施した結果、9624票の回答がありそのうちの実に98.1%が「設置は義務化すべきではない」と回答、「義務化すべき」はたったの0.9%に過ぎなかったという。義務化は不要と回答した人の主な理由は、▽台風・雪・雹・火事などのリスク、▽パネルの反射光が「光害」となる、▽いつ首都直下型地震がくるのかわからない時に二次災害の恐れがある――などが多かった。
 一方で、都内では明治神宮外苑地区の再開発計画事業が持ち上がり、神宮外苑にある50〜100年以上の大木等を事業者代表の三井不動産が1000本近く伐採して高層ビル化する方針で、これに対して小池知事は環境アセス対象事業でありながら、まだ明確な方針を示していない。計画の見直しを求める署名活動や有識者による事業反対の意見表明も多く出されている。
 PVの設置義務化も神宮外苑の樹木伐採問題も、気候変動対策としてのCO2削減という共通点がある。特に後者は事業者から新たな植樹を行う代替案が提示されているものの、今ある大木群は都心では貴重なCO2の吸収源としての役割や高温を緩和する機能などかけがえのない存在となっている。政府の温暖化対策では30年までにわが国のCO2総排出量の6%超を森林吸収源で対処することを決定している。一方で、JR新橋駅近くにそびえる高さ210mの電通本社ビルが東京湾からの浜風を遮り、風下住宅に熱帯夜を生じさせるという杜撰な都市計画事業の事例もあった。
 こうした都の対応は、PVの設置義務化を検討しながらその一方ではCO2排出増をもたらす事業に手を貸す辻褄が合わない行政と言わざるを得ない。




気候変動対策に参加したくなる新鮮な政策を
2022/06/14(Tue) 文:(M)

 時季外れの話題で恐縮だが今春、子どもの卒業式に出席した。学校の伝統を自慢ばかりする校長の話は退屈だった。逆に社会人として活躍する卒業生の「来賓祝辞」は失敗談あり、同級生との交流ありと話題が身近で、印象に残った。学校長祝辞とは違い、続きを聞きたくなった。
 大昔になるが、自分が卒業生だった時、どんな祝辞を贈ってもらったのか思い出せない。振り返ってみると卒業式は開催が決まっている年間行事であり、参加が義務付けられた儀式という感覚だ。もっと積極的に関わっておけば思い出が残っただろうと後悔する。
 浅田次郎さんの小説『大名倒産』(文藝春秋刊)に「がんじがらめの繁文縟礼(はんぶんじょくれい=規則や儀礼作法が煩わしいこと)」という表現が出てくる。太平が続いた江戸時代、大名は礼法通りが重視され、いかに慣習を守れるかで出世が決まるようになった。しかし「それも二百六十年にもなれば、起源も意味も不明のならわしがたくさんある」。主人公の若い大名は「そうした歪んだ制度と武士の困窮は不可分」と悟る。その証拠に、不要となった制度を守ることで無駄な労力と出費がかさんだ主人公の藩は「倒産」が迫る。
 現代にも無用の繁文縟礼があるようだ。環境省は2020年8月、優先度が低下した事業を放置しないために5年以上継続した事業の廃止・見直しを表明した。同省にも当初の目的が薄れ、続けることが目的化した事業があったためだ。一度始めると廃止に抵抗があるが、無駄な事業にエネルギーを注ぐと職員は疲弊する。
 逆に新しい事業は組織だけでなく、周囲も活性化する。今年4月、22年度からの新規事業である「脱炭素先行地域」入りを目指す自治体を取材した。その時は国による選考結果の発表前だったが、自治体の担当者は申請に向けて他部署や事業者との議論が楽しかったと振り返っていた。再生可能エネルギーと地域振興を両立させる発想が新鮮だったようだ。いつしか「交付金目当て」にならないよう、国には事業の“鮮度”を保ってほしい。
 まだ時期的には早いが、23年度概算要求にも国民が気候変動対策に意欲的に参加したくなる新鮮な政策を期待したい。




省エネ・創エネルギーの超大国目指せ
2022/06/01(Wed) 文:(水)

 「冗談でなく云いたいのだが、『停電の日』を設けていい。まず電力がとめどなく必要なのだという現代神話から打ち破らねばならぬ」(暗闇の思想を/明神の小さな海岸にて)。豆腐屋の作家として知られた松下竜一氏(故人)が2012年に著した一文である。当時、松下氏は福岡県豊前市で小さな豆腐屋で生計を立てていたが、1970年代に近くの明神海岸に九州電力の豊前火力発電所(重原油)開発計画が具体化、これに反対する住民運動を先導していた。九電は直接交渉の席で「我々は皆さん方が使う電気を賄うために必死に発電所を開発している」と反論する会社側の釈明に戸惑い、思い至って書いた書だ。結果として豊前火力は建設され、その後約40年にわたり稼働することになる。
 もう一つ、1996年頃から自治体を中心に大きなうねりとなった「1%節電運動」という埼玉県川越市の舟橋功一市長が実践した取り組みもあった。簡単に言えば、2階3階に上がるのにはエレベーターを使わず無駄な電気を消し、残業もできるだけ避けるといういわば誰でもできる節電を呼び掛けたものだが、同市はこうした取組により年5%以上の節電に成功、約9000万円の電気代削減を果たした。この運動は当時の市民団体・公害問題研究会(仲井富代表)の後押しもあって全国的に普及、「節電・新エネ自治体サミット」が開催され、今日の計696自治体となった「2050年ゼロカーボン宣言」につながっている。
 その川越市は昨年5月、川合善明市長の下で「小江戸かわごえ 脱炭素宣言〜2050年脱炭素社会の実現に向けて」を発表。「江戸時代に舟運による産業発展の恩恵を受けてきたが、近年は河川の氾濫による浸水など甚大な被害を受けており、地球温暖化防止のため二酸化炭素排出量削減に取り組むことが必要」との決意を示した。
 そして今、ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こしたエネルギー確保の不安定と価格高騰である。経済産業省も環境省も相変わらず「無理のない節電・省エネ」政策を展開しているが、果たしてこれが今日の時代に妥当なのか。むしろ「無理のある節電・省エネ」に切り替えて、暗闇の思想の根底にあるローソク文化という新たな文明価値を創り出すような知恵が必要ではないか。 



【これより古い今月のキーワード】

【TOP】 【今月のキーワード】 【行事予定カレンダー】 【エネ環ダイジェスト】
【書籍紹介】 【最新号見出速報】 【今週の注目記事】 【記事データベース】
【こぼれ話】 【省エネ・新エネ】 【出版物案内】 【本誌紹介】 【会社概要】 【リンク集】