今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

「ともかく逃げろ」という判断の難しさ
2022/08/10(Wed) 文:(水)

 今年も7月を過ぎて、台風や集中豪雨、局地的な大雨による洪水・河川の氾濫など災害シーズンがやってきた。自然災害が多い我国の公共インフラ、例えば河川の堤防や橋梁、防潮堤などはこれまで100年に1回の頻度で発生する大雨や巨大台風の安全対策を前提に設計されていたが、近年は地球温暖化に伴う気候変動による影響で10〜20年の頻度で”歴史的な”とか”過去初めて”という事象が常態化しつつある。
 そうした事態への事前予防対策は従来に増して重要となるが、国・自治体の取り組みさらには住民の意識もまだまだ十分ではない。先般、国交省と東京都は都内を流れる荒川や江戸川が氾濫した場合、大規模水害によって「海抜ゼロメートル地帯」の大半住居等が冠水し、約1週間は水が引かない状況が続くという調査結果を公表、74万人が避難を余儀なくされるとした。
 5月中旬、2011年3月11日に発生した巨大地震と大津波で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市を訪ねた。そこで、当時は大津波による悲劇の象徴ともいわれた北上川河口沿いにある石巻市立大川小学校の11年後の姿を見た。現在は震災遺構として公園風に整備されているが、学校そのものは震災時に破壊されたすさまじい傷跡がそのまま保存され、外から見える教室には子供たちが勉強していた机や椅子、用具などが今にもにぎやかな声が聞こえてくるようにそのまま残されている。
 当時ここには高さ8.6mもの津波が押し寄せて学校を一瞬でのみ込み、児童74人教職員10人が犠牲になった。しかし学校のすぐ裏にある小高い丘に逃げ、間一髪助かった児童もいた。津波が押し寄せてくる数分前に、学校側は校庭に生徒を集め避難の段取りを指示しようとしていたが、それを無視していち早く裏山に逃げ込んだ腕白生徒は無事だった。本当に残酷な結果だが、校庭で数分間、先生の指示を聞いていた70数人の生徒は教職員ともども犠牲になった。
 21年5月から改正災害対策基本法が施行され、従来の大雨などの災害時に市区町村が発令する「退避勧告」が「避難指示」に一本化された。大川小学校のケースでも、災害時は受け身の対応ではなく、ともかく逃げろという自立的な行動が大切なことを教えてくれている。




辻褄が合わない小池知事の気候変動対策
2022/06/30(Thu) 文:(水)

 小池東京都知事が一枚看板とする「カーボンハーフ」(2030年までに都内のCO2排出量を50%削減)方針の具体策として、「都民の健康と安全を確保する条例」を改正、一定規模以上の建築物および住宅等の新築供給事業者を対象に、太陽光発電(PV)等の再生可能エネルギーを設置義務化する方針という。PVの新築住宅義務化方針は住宅の所有者等に義務付けるものではないが、コストアップによってウサギ小屋同然と揶揄される若年層等の住宅取得の困難化や費用の増大につながるという批判も出され、議論を呼んでいる。
 この問題を取り上げた6月12日付け「夕刊フジ」の記事によると、同紙が緊急アンケートを実施した結果、9624票の回答がありそのうちの実に98.1%が「設置は義務化すべきではない」と回答、「義務化すべき」はたったの0.9%に過ぎなかったという。義務化は不要と回答した人の主な理由は、▽台風・雪・雹・火事などのリスク、▽パネルの反射光が「光害」となる、▽いつ首都直下型地震がくるのかわからない時に二次災害の恐れがある――などが多かった。
 一方で、都内では明治神宮外苑地区の再開発計画事業が持ち上がり、神宮外苑にある50〜100年以上の大木等を事業者代表の三井不動産が1000本近く伐採して高層ビル化する方針で、これに対して小池知事は環境アセス対象事業でありながら、まだ明確な方針を示していない。計画の見直しを求める署名活動や有識者による事業反対の意見表明も多く出されている。
 PVの設置義務化も神宮外苑の樹木伐採問題も、気候変動対策としてのCO2削減という共通点がある。特に後者は事業者から新たな植樹を行う代替案が提示されているものの、今ある大木群は都心では貴重なCO2の吸収源としての役割や高温を緩和する機能などかけがえのない存在となっている。政府の温暖化対策では30年までにわが国のCO2総排出量の6%超を森林吸収源で対処することを決定している。一方で、JR新橋駅近くにそびえる高さ210mの電通本社ビルが東京湾からの浜風を遮り、風下住宅に熱帯夜を生じさせるという杜撰な都市計画事業の事例もあった。
 こうした都の対応は、PVの設置義務化を検討しながらその一方ではCO2排出増をもたらす事業に手を貸す辻褄が合わない行政と言わざるを得ない。




気候変動対策に参加したくなる新鮮な政策を
2022/06/14(Tue) 文:(M)

 時季外れの話題で恐縮だが今春、子どもの卒業式に出席した。学校の伝統を自慢ばかりする校長の話は退屈だった。逆に社会人として活躍する卒業生の「来賓祝辞」は失敗談あり、同級生との交流ありと話題が身近で、印象に残った。学校長祝辞とは違い、続きを聞きたくなった。
 大昔になるが、自分が卒業生だった時、どんな祝辞を贈ってもらったのか思い出せない。振り返ってみると卒業式は開催が決まっている年間行事であり、参加が義務付けられた儀式という感覚だ。もっと積極的に関わっておけば思い出が残っただろうと後悔する。
 浅田次郎さんの小説『大名倒産』(文藝春秋刊)に「がんじがらめの繁文縟礼(はんぶんじょくれい=規則や儀礼作法が煩わしいこと)」という表現が出てくる。太平が続いた江戸時代、大名は礼法通りが重視され、いかに慣習を守れるかで出世が決まるようになった。しかし「それも二百六十年にもなれば、起源も意味も不明のならわしがたくさんある」。主人公の若い大名は「そうした歪んだ制度と武士の困窮は不可分」と悟る。その証拠に、不要となった制度を守ることで無駄な労力と出費がかさんだ主人公の藩は「倒産」が迫る。
 現代にも無用の繁文縟礼があるようだ。環境省は2020年8月、優先度が低下した事業を放置しないために5年以上継続した事業の廃止・見直しを表明した。同省にも当初の目的が薄れ、続けることが目的化した事業があったためだ。一度始めると廃止に抵抗があるが、無駄な事業にエネルギーを注ぐと職員は疲弊する。
 逆に新しい事業は組織だけでなく、周囲も活性化する。今年4月、22年度からの新規事業である「脱炭素先行地域」入りを目指す自治体を取材した。その時は国による選考結果の発表前だったが、自治体の担当者は申請に向けて他部署や事業者との議論が楽しかったと振り返っていた。再生可能エネルギーと地域振興を両立させる発想が新鮮だったようだ。いつしか「交付金目当て」にならないよう、国には事業の“鮮度”を保ってほしい。
 まだ時期的には早いが、23年度概算要求にも国民が気候変動対策に意欲的に参加したくなる新鮮な政策を期待したい。



【これより古い今月のキーワード】

【TOP】 【今月のキーワード】 【行事予定カレンダー】 【エネ環ダイジェスト】
【書籍紹介】 【最新号見出速報】 【今週の注目記事】 【記事データベース】
【こぼれ話】 【省エネ・新エネ】 【出版物案内】 【本誌紹介】 【会社概要】 【リンク集】