今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

CO2最大排出国・中国の責任と二面性
2024/06/07(Fri) 文:(水)

中東の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで国連気候変動枠組み条約第28 回締約国会合(COP 28)のプレCOPが10 月30 〜 31 日に開かれ、11 月30 日からの本番の会議に向けたテーマや日程などの事前調整が行われた。COP 28 の最大テーマは、パリ協定に定める地球の気温上昇抑制の長期目標(2℃または1.5℃以下への努力)に対する締約国の対応を集約・評価、それらを踏まえた今後の対策の方向性に合意する予定だ。直近の国際情勢はイスラエルによるハマス攻撃など先行き不透明な情況もあるが、世界中で頻発した今夏の歴史的な異常気象に伴う自然災害などへの対応が改めて問われることとなる。
COP 28 会合に向けては、10 月初めに各国が提出した自主的なCO2等の削減対策を集約して進捗状況を評価する初のグローバル・ストックテイク(GST、5 年に1 回)を開催しているが、各国提出の報告書は勝手な解釈の自己主張が多く、内容も千差万別だったようだ。COPでは統合報告書として、▽ 2025 年までに世界のCO2等排出量のピークアウト、▽ 30 年までに43%削減(19 年比)、▽ 35 年までに60%削減、▽ 50 年までにCO2排出実質ゼロ――などの目標を提示しているが、全項目に言及したのは日本を含めて少なかったという。
地球環境最大危機の原因とされる世界全体のCO2総排出量は約314 億t(20 年の国連調査)。
この中で最大の排出国が断トツの中国で実に32.1%を占め、次が米国の13.6%、インド6.6%、ロシア4.9%、日本3.2%と続く。その中国は今回のGSTにおいても、「30 年にCO2排出量のピークアウト、60 年に実質ゼロ」という目標の見直しはなかったという。それどころか、相変わらず京都議定書時代に途上国代表として主張していた“先進国責任論”に固執して、とにもかくにも先進国による大幅削減が先決という論理だったようだ。
しかし、中国は現実の経済活動では一帯一路の輸出において再生可能エネルギー関連が今や半分以上、欧米や日本の再生エネ市場でも関連機器の供給で過半をシェアするなど、脱炭素化ビジネスで最も利益を受けている大国である。一方で先進国の企業には、いま以上の対策強化に対し
て「中国のためにCO2を削減しているようなものだ」という不満も出ている。不思議なのは主要国がこうした二面性に正面から議論していないことだ。




「デコ活」の推進と経済的措置の有効性
2024/03/08(Fri) 文:(水)

脱炭素につながる新たな国民運動として環境省は「デコ活」の浸透を重点的に進めている。省内には「デコ活応援隊」を設置、隊長には課長クラスを充て、副長以下4 人の隊員が自治体や個別企業・企業団体などに様々な活動を要請したり折衝役をこなす。
「デコ活」というロゴマークはCO 2 を減らす( DE ) 脱炭素(Decarbonization) と、環境に良いエコ( ECO ) の意味を含めた“ デコ” を組み合わせた造語だ。「デコ活」の政策的な狙いは2050年のカーボンニュートラルの達成と30 年のCO 2 削減目標実現を果たすための消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするというものだ。
環境省はそうした多くの企業・自治体・団体・個人に企業活動や製品・サービスに自覚的な環境配慮を促し、取り組む内容を登録・公表してもらう「デコ活宣言」も展開。デコ活応援団として経済界の主要な団体等が参画する「新国民運動官民連携協議会」も発足させ、活動方針や相互
交流などを定期的に行う。すでに9 月18 日時点で818 の企業・自治体・団体等が加盟、先導的な活動を実施しているという。
しかし、歴史的に見ると、この種の国民運動はこれまでも数多く展開された経緯があるが、ほとんどが一過性で終わり、目立った成果を上げたという事例はあまり聞かない。かつての民主党野田政権時代にエネルギーと環境問題を首相官邸詰めで担当した柿沼正明氏も、「国民運動を盛り上げるアイディアとしてはいいが、個人の努力を前提としたもので政策効果は短期限定なものになる。それよりも経済的な措置として、中小企業等が実施しようとする環境事業へのインパクトファイナンスの本格的導入など、長期的かつ構造的な対策こそ本命であるべき」と語っていた。
加えて経済的措置では買い物用プラスチックレジ袋の有料化措置が劇的に人々の行動様式を変え、今では自らバッグを用意したり、レジ袋を辞退する人が買い物客の1/3 以上はいるという。
プラ袋はたった3 〜 5 円の課金だが、見事にプラスチック全般見直しの機運を醸成した。環境省の国民運動を否定するものではないが、それと同時により困難な制度的・構造的な対策こそ急ぐべきではないだろうか。




ドラマにも太陽光発電トラブル、次世代シナリオは?
2024/03/06(Wed) 文:(M)

7月にスタートした民放ドラマのほとんどが今月、最終回を迎える。筆者は2作のドラマを毎週、見ている。これだけのめり込んだのは久しぶりだ。偶然だが、その2作とも太陽光発電をめぐるトラブルが登場する。木曜放送の「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)は、主人公が都会から移住した山村が舞台。のどかな集落だが住宅火災が相次ぐ。不審火を疑うと、太陽光発電所の建設用地買収が放火犯の動機として浮かび上がる。
日曜放送の「VIVANT」(TBS系)は、総合商社が中央アジアでの太陽光発電事業に用意した資金が海外のテロリストに渡る展開だ。メガソーラーとなると巨額が動くため、反社会勢力の資金源として描かれた。
老若男女が幅広く視聴する地上波のドラマで題材になるということは、再生可能エネルギーをめぐる事件が一般化したということか。現実の世界でも景観問題や森林破壊、土砂災害との関連性が指摘され、事業者と住民が係争になっている地域が少なくない。資金をめぐる事件や疑惑も
後を絶たない。将来の太陽光パネルの大量廃棄を心配する声もあり、太陽光発電の周辺は悲観的な情報があふれている。
逆風下ではあるが、パナソニックホールディングス(HD)は8月末、次世代太陽電池として本命視される「ペロブスカイト太陽電池」の開発を発表した。ガラス上に発電部分を作る技術を確立しており、「発電するガラス」を製造できるという。
ペロブスカイト太陽電池は材料を塗って作る構造なので、主流のシリコン系よりも製造コストを抑えられる。また薄くて軽く、シリコン系に迫る発電性能もある。発明者の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は毎年、ノーベル賞候補に名前が挙がっている。政府も開発を支援しており、パナ
ソニックHDのほか、積水化学工業や東芝、リコーなども試作や実証でしのぎを削る。
しかし実用化では中国メーカーが先行し、量産に乗り出した。日本の太陽電池メーカーは世界の首位に立ちながら、あっという間に凋落した「苦い経験」がある。
「次世代太陽電池でも敗戦」。こんなドラマが放映されないためにも政府には普及を急いでほしい。ハッピーエンドを迎えるために、メーカーも商品化を早く決断してほしい。 



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