今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

水・大気局の再編と60年以上未解決の公害被害
2022/11/01(Tue) 文:(水)

 環境省は8月末に締め切られた2023年度予算案の概算要求の中で、あまり目立たなかったが「機構・定員要求」の一環として、運輸部門の脱炭素化および海洋環境保全などの体制強化のため、現在の水・大気環境局の再編を打ち出した。
 水・大気局の再編では局名は変えない方針だが、「環境モビリティ課」や「海洋環境課」「環境管理課」などを新設する。相対的に水・大気・土壌汚染対策などの古典的な公害対策の比重が軽くなる可能性があり、地方自治体の公害・環境行政組織や被害者らへの影響も大きい。
確かに国際的な環境問題の潮流を見れば、気候変動+地球温暖化対策の実践が最重要課題となっており、国境を越えた廃プラスチック等の処理問題でも各国に具体的な対応を促している。
 しかし、今日の環境行政の原点とされる水・大気局の再編には地方自治体の関係者や環境省OBの人たちからも異論・批判が多い。昭和40年代以降の高度経済成長期における大気・水行政は、まさに産業公害・自動車公害・工場排水汚染と汚濁を強制的に規制する現場重視の対応であり、それを可能にするための法体系もこと細かく用意されていた。今では環境行政を日常的に担っている職員ですら、細かい規定を熟知している人が少なくなったという。
 特に水・大気局の再編案の行方で気がかりなのは、未だに2千数百人の認定患者と数万人の潜在患者が指摘されている水俣病の被害者、イタイイタイ病患者、大気汚染では喘息など呼吸器系被害者の行く末である。環境省の23年度概算要求では、前年度までと同様に「不変の原点の追求〜公害や災害を乗り越える地域が共生する社会に向けた取組〜」として、公害等の健康被害対策と生活環境保全を重点政策課題の一つとしている。いかにも表向きは環境被害をおこさず、国民にも寄り添った行政を展開するように見える。
 しかし、こうした政策課題の提示はマンネリ化しており、温暖化対策等を進めるためのダシにしているような気がしてならない。被害者対策の中身も依然として従来のままである。水俣病の公式発見からすでに60年以上の歳月が流れているにも拘わらず、今なお根本的な解決に至っていない行政案件が先進国であるこの国のほかにどれだけあるのか。水・大気行政の再編前に歴史的なケジメを是非ともつけてほしいものである。




カーボンマイナス東京五輪・パラをレガシーに
2022/10/18(Tue) 文:(M)

 この時期、スポーツファンは落ち着かないのではないだろうか。プロ野球は優勝争いが佳境を迎えており、ひいきのチームの試合結果が気になるのでは。サッカー・Jリーグも上位進出をかけたゲームが続く。大相撲の九月場所も始まった。
 筆者は帰宅するとテレビで東京ヤクルトスワローズの試合を探す。村上宗隆選手(22)の打席を見るためだ。ホームラン記録を塗り替える「若き主砲」は、バットを立てると静止して投球を待つ。どんな投手でも“自分の間”で勝負する姿は堂々としており、迷いなくバットを振り抜くと「打って当たり前」の表情。派手さはないが独特の貫禄があり、ヤクルトファンではないが見る価値がある。
 振り返ると1年前、東京五輪・パラリンピックが開催された。昨年7月23日の五輪開幕からパラリンピック閉幕の9月5日まで、無観客という異常事態だったが、競技に一喜一憂した。その東京大会は五輪の歴史に残る「環境五輪」だった。
 大会の組織委員会がまとめた報告書によると、期間中の電力は太陽光やバイオマス発電などの電気を購入して再生エネ100%で賄った。それでも発生した二酸化炭素(CO2)は、他の場所での削減実績(クレジット)で帳消しにする「カーボンオフセット」を実施。クレジットの提供を呼びかけたところ、217事業者から実際の排出量である196万トンを上回る438万トン分が集まった。結果的に東京大会の排出量は「カーボンマイナス」となった。
 大会は資源循環も徹底した。廃電子機器から取り出した金属でのメダル製作や廃プラスチックを再生した表彰台は有名だが、調達物品の99%を閉幕後にリユース・リサイクルした。
 こうした環境面での成果が、社会に伝わっていないように思える。最近では汚職事件が報道されており残念だ。せっかくの環境五輪を“レガシー(遺産)”として継承してほしい。せめて国内の主要なスポーツ大会は、脱炭素やごみゼロを標準にすべきではないだろうか。
 グリーントランスフォーメーションを先導する国が開催するイベントも同じだ。元首相の国葬の費用に関心が集まるが、その費用にカーボンオフセットの予算は含まれるのだろうか。




浮体式風力の星・某中堅技術者無念の退職
2022/10/06(Thu) 文:(水)

 洋上風力発電事業は2030年前後以降、本格的な再生可能エネルギーのエースとされ、その導入規模は年間稼働率を別として原発1基の最大出力100万kWを前提にすれば、10〜45基分が想定されており、パリ協定に定める地球気温上昇1.5℃抑制の実現と我が国カーボンニュートラル達成のカギを握っているとも言える。
 30年以降の洋上風力立地は、急峻な沿岸が多く、漁業権があまねく設定されていることから海底工事をほとんど要せず起き上がりこぼしの原理を応用して風車を海に浮かべる「浮体式」が本命とされている。すでに長崎県五島市の福江島沖合で着工(計1.68MW)しており、24年1月にも我が国初の稼働となる。地元の新たな産業振興への期待も極めて大きい。
 その浮体式開発に一身を投げ打ち約15年間、水槽での模型実験→検証→実物1/10大の実験→環境省の実証事業採択→商用化などで中心的役割を果たしてきたS氏が9月1日付けでT建設を退職した。その理由は側聞でしかないが、会社首脳による開発・実用化の社会的価値に対する理解の浅さと組織的な締め付け、対外的な発信方法などが大きく影響したという。確かに会社首脳とすれば、靴底をすり減らしてようやく何十億の仕事が受注できた社員に比べて、これから3〜5年先にしかキャッシュが入ってこない事業に、大きな投資を続けるのがよいかという経営的な問題もあろう。
 しかし日本の経営者は今日の気候変動問題に対して、企業の役割をもっと大きく捉えて欲しいし、かつ懐の深い経営能力が必要ではないか。経済産業省は23年度予算の概算要求で「持続的な成長を可能とする経済社会の実現」として、多様な人材の育成、スタートアップ・イノベーションの創出のための環境整備づくりを重点事項として打ち出した。だが、そうした環境整備を進める前に経営者の意識改革をどう進めるかも重要だ。司馬遼太郎の名作に「峠」という小説がある。日本はまだ幕末の300諸侯に支配されていたが、一方で欧米列強の軍事力・産業力を背景にした開国要求が出された頃、弱小の長岡藩藩士の河井継之助は頑迷固陋な藩重役を相手にせず、いかに時代の激動を乗り切るかに奔走した物語だが、今の時勢と重なる示唆の何と多かったことか。



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