今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

真の復興妨げる「思遣之心」の欠落
2023/05/26(Fri) 文:(水)

この3月、東日本大震災(震度7、M9.0)発生から12年目を迎え、東北育ちの小生としては様々な思いが交錯した。一見、12年も経って東日本沿岸部の高さ8m以上もあるコンクリート製防潮堤などのインフラが整備され、防災の観点からは30〜50年に一度の大津波から何とか地域住民をブロックできるかもしれない。その一方で多くの海域で雄大の海の景色が目前から消え、なんの潤いのない海外線に変わり果てたところも少なくない。
タンクに溜まり続けている処理済み水の放流問題もギリギリの状況が続く。しかもこれから30年以上は続く世界でも最大級の廃炉作業の実質始まりであり、放流問題が解決しない限り前に進めない。権威ある国際機関や政府が全く問題ないと言っても「安心」や「風評」をゼロにすることはできない。そこで提案だが、放流当初2〜3年程度はチョロチョロ水で流しそれを関係者の了解の下に徐々に増やし利害関係者・消費者・地域住民などが定期的にウオッチする「国民海洋保全賢人会議」のような独立組織をつくったらどうか。
もう一つ3.11の原発事故では周辺市町村のエリアが放射性物質に汚染され、その後に帰還して生活するための除染作業によって生じた残土等が福島県内の中間貯蔵施設や県外に多く残置されている。事業を受け持つ環境省は人の健康に問題ない除去土壌を公共事業等に再利用する計画を進めており、同省が敷地管理する埼玉県所沢市の環境調査研修所と東京新宿の新宿御苑管理事務所でその土壌の再利用を関係自治会に説明したところ、迷惑施設などとして反対されている。よく聞く話で近くにある公園施設で子供の騒ぎ声がうるさいから閉鎖しろとか新設するな、などの身勝手な要求に共通する現象だ。
当時の大蔵省から環境省に出向、事務次官を最後にその後神奈川県知事を2期務め上げた岡崎洋氏(故人、2018年死去)の遺稿集「行くに径(こみち)に由らず」によれば、どのような経済社会体制の如何を問わず▽個人の他に対する配慮の欠如▽野放図な経済発展・開発推進の優先を是認する社会の風潮――などが、社会への「思遺之心」(おもいやりのこころ)を消滅させる要因と指摘する。我われはもう少し人間生活の原点を思い起こすべきではなかろうか。




不十分な地方との意思疎通、カタカナ語乱用も一因
2023/05/19(Fri) 文:(M)

東日本のある県の職員は、環境省が2022年度に始めた脱炭素先行地域を「自分たちで事業内容を決められるので、使いやすい」と評価していた。県が申請に協力した市が、脱炭素先行地域に選ばれた。「県内の他の市町村も手をあげてほしい」と広がりを期待する。
一方で「再エネ促進区域」には関心がない。再エネ促進区域は、市町村が再生エネ事業に適した場所を選定する。太陽光や風力発電事業が住民とトラブルになる事態が起きており、行政が関与することで合意形成を図りやすくしようと政府が22年4月施行の改正地球温暖化対策推進法(温対法)で創設した。
県職員は市町村の本音を代弁し、「行政側からすすんで私有地を促進区域にすることはありえない。発電事業ができる公有地もない。あるとしたら林地だが、わざわざ樹木を伐採することもできない」と語る。すべてが国の思惑通りとはいかないようだ。
また、西日本のある県の職員はカタカナ用語をぼやいていた。「前政権はカーボンニュートラルと言っていた。それが現政権はクリーンエネルギー戦略と言ったと思ったら、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針が出てきた」とカタカナの変遷を並べる。クリーンエネルギー戦略は“グリーン(緑)”ではなく、“クリーン(きれい)”だったので「紛らわしくて県議会議員が混乱している」と困惑する。
他にも「規制があった方がやりやすい」と注文をつける。地元企業向けセミナーを開くと、「脱炭素は良いことだと理解したけど、取り組まないとダメなのか」と質問されたという。二酸化炭素(CO2)排出量削減は規制ではないので、行政としては強制ができない。「森林整備をしてJ−クレジットを創出しているが、意欲的な企業しか買ってくれない。CO2削減が規制的なものであれば、買い手が付いて森林整備に資金が回る」と期待する。カタカナ言葉の連発よりも、現場の要望にあった施策を望む。
国も自治体の声を聞きながら制度を作ってきたはずだ。しかし、運用すると課題が出てきて当然なので、柔軟な修正が求められる。30年度の13年度比46%削減に向けた時間がない。国と地方は意思疎通をして、実効性のある施策を作ってほしい。




脱炭素で頑張る企業が報われる仕組みを!
2023/04/07(Fri) 文:(水)

『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など、数々のヒット作を手がけた映画プロデューサーの鈴木敏夫さんは著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書刊)で、あえて雑誌の部数を落としたエピソードを明かしている。
徳間書店に勤務していた当時、担当した雑誌がヒットし、みるみる部数が増えた。しかし、周囲からのプレッシャーが高くなり、数字を追って誌面から自由がなくなったという。そこで鈴木さんはアニメ作家の宮崎駿さんの特集を組んだ。まだ知名度は低かったが「本当にやりたい企画」だったという。部数は半減したが、自由を取り戻し「みんな雑誌を作ることを楽しみ始めた」と回想する。
最近、似たような話を聞いた。国産材を加工した環境配慮商品を企画し、事務用品専門のインターネット販売サイトで売り始めた。しばらくするとサイト運営会社から連絡があり、供給を増やしてほしいと頼まれた。値下げを求められると覚悟していたが、「価格を下げると環境価値が伝わらなくなる」とキッパリと言われたという。商品は値下げが売上高を伸ばす一つの手段だが、サイト運営会社は環境価値にこだわった。雑誌は面白い誌面があってはじめて部数を競う。環境配慮商品は環境価値で消費者に選ばれるのであって、本来なら価格での勝負は後回しのはずだ。
しかし、まだまだコストが優先される。ある会議で再生可能エネルギー電気の購入や、売上高の一部を自然保護活動に寄付する中小企業を話題にしていると、ある中小企業の経営者が「再生エネなんか使って余裕があると思われたくない。取引先からは寄付できるならコストを下げろと言われる」と発言した。これも現実なのだろう。
いま、脱炭素に意欲的な中小企業は社屋に太陽光パネルを取り付け、営業車を電気自動車(EV)に代えるなど、環境配慮商品を購入している。どれも今は高額だが、太陽光パネルやEVは年々、価格が低下するので後から脱炭素に取り組んだ企業ほど得する。
コストがかかっても頑張った企業が報われる仕組みが、カーボンプライシングだ。CO2の排出を減らすほど得になるからだ。しかし、日本の排出量取引は自由参加、炭素賦課金の対象も一部企業となった。政府には先行して頑張る企業が報われる仕組みも考えて欲しい。



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