今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード

「デコ活」の推進と経済的措置の有効性
2024/03/08(Fri) 文:(水)

脱炭素につながる新たな国民運動として環境省は「デコ活」の浸透を重点的に進めている。省内には「デコ活応援隊」を設置、隊長には課長クラスを充て、副長以下4 人の隊員が自治体や個別企業・企業団体などに様々な活動を要請したり折衝役をこなす。
「デコ活」というロゴマークはCO 2 を減らす( DE ) 脱炭素(Decarbonization) と、環境に良いエコ( ECO ) の意味を含めた“ デコ” を組み合わせた造語だ。「デコ活」の政策的な狙いは2050年のカーボンニュートラルの達成と30 年のCO 2 削減目標実現を果たすための消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするというものだ。
環境省はそうした多くの企業・自治体・団体・個人に企業活動や製品・サービスに自覚的な環境配慮を促し、取り組む内容を登録・公表してもらう「デコ活宣言」も展開。デコ活応援団として経済界の主要な団体等が参画する「新国民運動官民連携協議会」も発足させ、活動方針や相互
交流などを定期的に行う。すでに9 月18 日時点で818 の企業・自治体・団体等が加盟、先導的な活動を実施しているという。
しかし、歴史的に見ると、この種の国民運動はこれまでも数多く展開された経緯があるが、ほとんどが一過性で終わり、目立った成果を上げたという事例はあまり聞かない。かつての民主党野田政権時代にエネルギーと環境問題を首相官邸詰めで担当した柿沼正明氏も、「国民運動を盛り上げるアイディアとしてはいいが、個人の努力を前提としたもので政策効果は短期限定なものになる。それよりも経済的な措置として、中小企業等が実施しようとする環境事業へのインパクトファイナンスの本格的導入など、長期的かつ構造的な対策こそ本命であるべき」と語っていた。
加えて経済的措置では買い物用プラスチックレジ袋の有料化措置が劇的に人々の行動様式を変え、今では自らバッグを用意したり、レジ袋を辞退する人が買い物客の1/3 以上はいるという。
プラ袋はたった3 〜 5 円の課金だが、見事にプラスチック全般見直しの機運を醸成した。環境省の国民運動を否定するものではないが、それと同時により困難な制度的・構造的な対策こそ急ぐべきではないだろうか。




ドラマにも太陽光発電トラブル、次世代シナリオは?
2024/03/06(Wed) 文:(M)

7月にスタートした民放ドラマのほとんどが今月、最終回を迎える。筆者は2作のドラマを毎週、見ている。これだけのめり込んだのは久しぶりだ。偶然だが、その2作とも太陽光発電をめぐるトラブルが登場する。木曜放送の「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)は、主人公が都会から移住した山村が舞台。のどかな集落だが住宅火災が相次ぐ。不審火を疑うと、太陽光発電所の建設用地買収が放火犯の動機として浮かび上がる。
日曜放送の「VIVANT」(TBS系)は、総合商社が中央アジアでの太陽光発電事業に用意した資金が海外のテロリストに渡る展開だ。メガソーラーとなると巨額が動くため、反社会勢力の資金源として描かれた。
老若男女が幅広く視聴する地上波のドラマで題材になるということは、再生可能エネルギーをめぐる事件が一般化したということか。現実の世界でも景観問題や森林破壊、土砂災害との関連性が指摘され、事業者と住民が係争になっている地域が少なくない。資金をめぐる事件や疑惑も
後を絶たない。将来の太陽光パネルの大量廃棄を心配する声もあり、太陽光発電の周辺は悲観的な情報があふれている。
逆風下ではあるが、パナソニックホールディングス(HD)は8月末、次世代太陽電池として本命視される「ペロブスカイト太陽電池」の開発を発表した。ガラス上に発電部分を作る技術を確立しており、「発電するガラス」を製造できるという。
ペロブスカイト太陽電池は材料を塗って作る構造なので、主流のシリコン系よりも製造コストを抑えられる。また薄くて軽く、シリコン系に迫る発電性能もある。発明者の桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授は毎年、ノーベル賞候補に名前が挙がっている。政府も開発を支援しており、パナ
ソニックHDのほか、積水化学工業や東芝、リコーなども試作や実証でしのぎを削る。
しかし実用化では中国メーカーが先行し、量産に乗り出した。日本の太陽電池メーカーは世界の首位に立ちながら、あっという間に凋落した「苦い経験」がある。
「次世代太陽電池でも敗戦」。こんなドラマが放映されないためにも政府には普及を急いでほしい。ハッピーエンドを迎えるために、メーカーも商品化を早く決断してほしい。 




福一原発処理水放出で必要な互譲の精神
2024/02/19(Mon) 文:(水)

 事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所のアルプス処理水の海洋放出が8月24日から始まった。放出期間はこれから30年超という長きにわたる見通しだが、原発立地の地元である双葉町、大熊町は1日も早い処理完了を強く希望しており、福島浜通り地域の復興・再生や廃炉作業への対応にとっても1000基を超える処理済み水タンクの除去は避けて通れない道だ。
 頭の整理をする意味で、今回のアルプス処理水の放出に関わる要点を次に列記してみた。  
 ▽23年度の放出計画量は約3.12m3( 水泳プール12.5個分)。1日当たりは460m3( 同0.2個分) ▽除去できない放出トリチウムの年間総量は22 兆ベクレル未満。海水で希釈して流し国の排出基準の1/40、WHO( 世界保健機関)の飲料水基準の1/7に低減 ▽処理水に対してIAEA(国際原子力機関)による問題なしの見解 ▽政府は福島県内の漁協や全漁連に放出の理解を求めたが、反対方針変わらず ▽国は風評対策や漁業振興として計800億円の基金設置 ▽政府は放出の基本方針策定以降、延べ1500回以上の国内外理解活動を実施 ▽中国は8月24日に日本水産物の全面輸入禁止を決定 ▽翌25日以降、放出水の異常値は検出されず全て検出限界値未満
 こうした動きが連日にわたって報道され、さながら情報洪水そのものであり、風評被害の種をまき散らしていると言えなくもない。かつて日本は水俣病をはじめ多くの水関連の悲惨な公害を経験しているが、これほど質量ともに豊富な政府対応はなかった。
 しかし放流期間の30年超はこれだけでなく、事故により発電所周辺の環境中に放出された放射性物質をとり除いた土壌が県内に中間貯蔵されており、これの最終処分地も30年以内に確保する約束がある。環境省は安全レベルまで処理した土壌の再利用を進めているが、周知の通り福島県外での集中貯蔵地確保は難航し、再利用の方も埼玉県所沢市と東京都新宿区にある新宿御苑での実施が近隣住民の反対で進んでいない。
 中国政府による日本からの水産物輸入禁止措置と日本を罵倒する連日の嫌がらせ電話は、経済大国としてのメンツをかなぐり捨てた三流国そのものの姿と言えよう。いっそのこと日本政府は「こちらから水産物はもう輸出しません。その分を国内消費します」と言ってほしいものだ。我が国は欧米と違って陸続きではなく広い海洋の島国として昔から苦しい時の助け合いすなわち「互譲の精神」を大切にして、数々の苦難を乗り越えてきた。そうした心意気をもう一度咲かせたいものである。



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