今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去4〜19 回までの今月のキーワード]


GXも大事だが、身近な環境問題対応もおろそかにするな
2023/11/16(Thu) 文:(M)

 知人からトラブルに巻き込まれたと連絡が来た。家族が所有する土地で不法投棄が見つかったという。民家から離れた林地にある遊休地であるため、めったに行く機会がなく、いつ投棄されたのか分からない。現場から数百メートル離れた工場に聞いても、不審者に心当たりがないそうだ。
 警察や行政に届け出た。企業名を確認できる廃棄物もあったが、犯人の決め手とはならず、具体的な対応は決まっていない。家族に体力面の不安があるため、知人は都内の自宅から休日のたびに帰省し、解決に奔走している。当面は自費での撤去を覚悟している。
 筆者も廃棄物問題の専門家に助言を求めた。まずは行政に「どうしら良いのでしょうか」と相談するべきだという。市町村によっては、周囲の環境を破壊するとの理由で撤去を行政代執行してくれる。さらなる不法投棄を防ぐため、囲いや看板の設置も勧めてくれた。
 旧知の廃棄物処理業者の社長にも聞いてみた。答えはほぼ同じだったが、「似た事件がもっと増える」と衝撃的なことを言われた。転居などで管理者不在となった土地が各地にある。空き家も増えている。少しでも荒れた様子があれば、不法投棄の場所として狙われるそうだ。
 また社長は、家電など小さな廃棄物の投棄が増えるとも指摘する。経済産業省によれば、家電リサイクル法に則って適切に回収された廃家電の割合は6割台(冷蔵庫、エアコン、テレビ、洗濯機の4種の合計)。特にエアコンの回収率は3割台と低い。内部の金属が高値で売れるため、不適切なルートで持ち去る業者が存在するようだ。何らかの事情で不適切なルートが途絶えると、家電の不法投棄が増加する恐れがある。
環境省の調査によると2021年度、全国で新たに107件、総量3万7000トンの不法投棄が見つかった。年1000件以上が発生してピークだった990 年代後半に比べると沈静化したが、悪質な不法投棄が後を絶たない。
 気候変動に関心が向かいがちだが、廃棄物問題が解決した訳ではない。知人の件で不法投棄を身近に感じた。グリーントラスフォーメーションやサーキュラーエコノミーがもてはやされるが、政府には国民にとって身近な環境問題への対応もおろそかにしないでほしい。 



現代病の熱中症に構造的対策が必要
2023/11/01(Wed) 文:(水)

熱中症で近年亡くなる人が年平均約1300 人。救急車で病院へ搬送された人が約79 万人(2008 〜
22 年)という数字を見ると、高齢となって最近心臓関連の病を得た小生にとっても決して他人ごと
ではない。
もちろん熱中症死亡数はそれだけが原因ではなく、様々な持病などによる影響も多々あると見ら
れている。年間の交通事故死者数(2022 年2610 人)や自殺者数(21 年21081 人)に較べても決し
て小さな数とは言えない。進行する地球温暖化が日常の生活環境を一変させ、加えて電気料金など
エネルギー価格の大幅アップが今の熱中症増加に拍車をかけている。
環境省は先の通常国会で気候変動適応法等を改正、「熱中症対策実行計画」の策定と「気候変動
適応計画」の一部変更を行い、今夏から地方自治体・民間事業者も巻き込み従来の熱中症対策を拡
充強化する。自治体による体制整備として「指定暑熱避難施設」の確保や熱中症弱者の見守り・声
かけ運動の強化、極端な高温発生時の対応として「熱中症特別警戒情報」の発表・周知と予防行動
の呼びかけ、暑熱避難施設への誘導など法的措置を充実させる。特別警戒アラートの発令は気温や
湿度などの条件を加味して「暑さ指数(WBGT)」の発表となるが、指数28 以上で厳重警戒、31 以
上で外出自粛だ。
この実行計画では2030 年目標として熱中症死亡者数の「現状から半減」を掲げているが、政府
の対応策は小手先の対処療法どまりであり、もっと構造的な社会経済全体を変革するような基盤的
な対応を示すべきであろう。中長期的な構造対策はさらなる温暖化進行が所与のものであるならば
なおのこと不可欠である。そのいくつかを挙げれば、▽欧米並みの長期夏季休暇制の創設、▽大都
市における植林事業の実施と道路の遮熱対策、▽街中や駅構内におけるベンチ等の新増設、▽CO
2削減対策の共有−−など々枚挙に暇がない。いずれも高齢化社会への対応とも共通するものだ。
要は現代文明の「公害」とも言える熱中症を軽んじてはいけない。その延長で言えば、神宮の森
で巨木を伐採し超高層ビルを建てる再開発事業もヒートアイランド現象を加速化させ、自然の風の
通り道を今後50 年以上にわたってブロックする温暖化に加担する構造物の出現となる。



「文明の墓場」と対照的な環境白書
2023/09/29(Fri) 文:(水)

今年も毎年この時期に恒例の「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」が環境省から公表された。国内外の環境問題の動向と現状認識、政府が講じた施策の評価とこの1年間における政策展開の全貌や、2023 年度以降に講じようとする施策などをA4版345 頁にわたって展開して
いる。
白書のキャッチフレーズは、「ネットゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の統合的な実現に向けて」。気候変動や生物多様性損失などの地球環境悪化が危機的状況にあり、環境問題の枠にとどまらず経済・社会構造のあり方を含めた一体的取組が不可欠とする。
まだ熟読したわけではないが、率直にいって無味乾燥な役所言葉の連続であり、その先を読もうという気になれない。一方で環境問題を常にフォローしている関係者にとっては、1年間における重要な記録書・データであり、そうした役割を持っていることも否定できない。
今年5月2日付け朝日新聞の文化欄に、「倉本聰が問う『文明の墓場』」という記事があった。記事はテレビドラマの名作といわれた「北の国から」などを手掛けたあの倉本聰さんがプロデュースして札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境相会議の環境イベントの一つ「文明の墓場」の様子を伝えたものだ。その部屋一杯に線香の匂いが漂い、廃棄された衣類や携帯電話、核廃棄物のレプリカなどがところ狭しと置かれていたという。それ以前に発行された「文藝春秋」誌で高齢者ら向けに“貧幸の勧め”を発表していた倉本さんから見れば、飽くなき便利さの追求の結果に生じるCO2の排出・
蓄積や廃棄物・ごみをどうするつもりか、誰が責任をとるのか、と言いたかったのではないか。
今回の環境白書でも、炭素中立を目指して今後10 年間で150 兆円の巨額な官民投資を市場に展開、産業構造・社会構造を変革して将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現する「GX実現に向けた基本方針」を提示している。しかし、150 兆円の投資に必要となるエネルギー量や重要鉱物資源、耐久消費財の買い替えで発生する廃棄物量などが一体どれほどになるのかは一切明示されていない。端的に言えば、依然として便利さ追求の為政であり、経済成長最優先主義なのだ。 



G7広島サミットの点描と宿題
2023/08/04(Fri) 文:(水)

岸田首相が議長を務めた「G7広島サミット」は、ウクライナのゼレンスキー大統領の出席というサプライズもあって、ひときわ国際的な注目を集め5月21日閉幕した。共同声明ではロシアによるウクライナ侵攻という国際情勢の変化を反映し、▽ウクライナを引き続き支援する、▽法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化、▽核兵器のない世界という最終目標に向けた核軍縮・不拡散の取組強化――などで合意した。
会場となった広島ではG7首脳とゼレンスキー大統領らが平和記念資料館などを視察、78年前の原爆投下による一般市民などの悲惨そのものの犠牲を目の当たりにして、心のどこかに核兵器使用による地獄図を刻んだかもしれない。資料館視察ではマスコミがシャットアウトされたためか、首脳らの肉声が聞こえてこなかった。報道で気が付いたが、3日間の首脳会合やイベントなどでゼレンスキー氏の笑顔が一度も見られなかった。いま戦っている国民への思いがそうさせたのだろう。
残念だったのは、広島・長崎に原爆投下した米国のバイデン大統領から、当時の国際法にも違背していたことに対する謝罪や遺憾の表明がなかったことだ。不謹慎と言われそうだが、ここは3月のワールド・ベースボール・クラシックで、日本代表の「侍ジャパン」が前回王者の米国を大谷選手らの活躍で3対2の僅差で破って優勝したことで納得することにしよう。
共同声明はA4判にすると39頁もある長い文章だが、もちろん気候変動と生物多様性対応、エネルギーの脱炭素化推進強化が盛り込まれた。その共通認識と今後の対応は4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の集約をほぼ再度首脳レベルでも確認したものにとどまった。すなわち、パリ協定の1.5℃目標達成に向け“揺るぎない”対策強化を推進するとした。その1.5℃達成には現在の各国の削減目標見直しが必要となるが、最大排出国・中国の対策強化なしではとうてい覚束ない。共同声明ではこれまでと同様に中国に対する名指しの批判や要請を避け、「主要経済国」という言い方で、あまり刺激しない配慮を行ったという。それならば中国が加わる形にG7を「G8」に衣替えして、地球環境に責任をもった首脳会議にしたらどうだろうか。



G7環境相声明、「離見の見」に学びたい
2023/07/21(Fri) 文:(M)

室町時代の能役者、世阿弥は著書『花鏡』で、悪い演者は「我見」でしか見ないが、良い演者は自分を客観視する「離見の見(けん)」を持っていると述べている。自分がどう見られているかを意識しなさいという教えとして継承されている。
先進7カ国気候・エネルギー・環境相会合が4月15〜16日、札幌市で開かれた。日本にとっては自慢の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策が海外からどう見られているのか、知る機会だったのではないだろうか。
水素やアンモニアを燃料にした発電もGXの目玉。共同声明を採択した直後の記者会見で、西村康稔経済産業相は「ゼロ・エミッション火力発電として活用することを確認できた」と胸を張った。しかし、共同声明では「排出削減が困難な産業において、効果的であれば使用すべきである」と注文が付き、「電力部門で水素やアンモニアの使用を検討している国があることにも留意する」の書きぶりにとどまった。西村経産相の発言とはトーンが違う。
環境団体は水素やアンモニアの混焼を「火力発電の延命」と批判している。また、海外で製造した水素やアンモニアの輸送に伴う二酸化炭素(CO2)排出も含めるとゼロ・エミッション(排出ゼロ)とは言えるのか疑わしく、共同声明にも輸出についての懸念が書き込まれた。
議論の詳細は分からないが、他国が反対する中、日本が粘って水素とアンモニアの利用を共同声明に入れたなら、その事も明らかにしてほしい。完全に合意されたと信じた企業がゼロ・エミッション火力発電を開発しても、海外に売り込めない事態が起きてしまう。他の先進国が納得していないという情報があれば、企業は開発と並行して懸念を払拭するように他国を説明する時間を持てる。
自動車の目標についても「2035年までに保有車両からの排出量を2000年比半減する可能性に留意する」となっており、決定事項ではない。それにもかかわらず日本の市場関係者に、現状の技術を延長したエンジン車が認められたような誤ったメッセージを与えてはいけない。
国民や企業、自治体関係者は共同声明の原文を読み、「離見の見」で日本を客観視し、海外の潮流を確認しながら脱炭素を進めてほしい。多様な道筋はあるが、誤った道を選ばないように。



うちのカミさんにも分かる言葉で
2023/06/30(Fri) 文:(滝)

「GXを実現するための法案って言ってたけど、GXってなんのこと?」。朝食の納豆をかき混ぜていたらカミさんから聞かれた。NHKニュースを聞きかじったようだ。
「GXはグリーントランスフォーメーションの略だったかな。地球温暖化対策とエネルギー確保の同時解決を目的に、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブなどの手法が使われる……」。フンという顔をされ、「分かんないわよ。そんなカタカナ語なんて理解できるわけないじゃない。アーア、聞いて損した」
久しぶりに環境やエネルギーの世界に接すると、カタカナの専門用語に“異国の地”に迷い込んだような気になってしまった。インターナルカーボンプライシング(ICP)活用ガイドライン:環境省、ネイチャーポジティブ(NP)の実現:同、クライメート・イノベーション・ファイナンス推進事業:経産省、グリーンイノベーション(GI)プロジェクト部会:同、サーキュラー・エコノミー(CE)情報流通プラットフォーム(PF):同、バイオトランスフォーメーション(BX)戦略:経団連、カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画策定マニュアル:国交省……などなどなど。
大昔の話になるが、毎日新聞社に入り赴任した支局のデスクから言われたのが「記事は中学生でも分かるように書け」だった。特ダネや専門性の高い記事をと意気込んでいた当時は「なんで」とも思ったが、記者を続けているうちに「平易に分かりやすく書く難しさ」が身に染みて分かった。十のことをやさしく書くには百のことが分かっていないと書けない、逆に専門用語や業界語を使えば分かっていなくてもそれらしい記事は出せた。
少し昔、ある官庁の人と飲んでいる時に言われた。「効率的に議論したり、ペーパーを仕上げるには専門用語は必要になってくる。欧米や国際機関とツーカーの議論をするにもカタカナ語は有効なんだよ」。でも酔いが回ると「議員さんや市民団体から余計なことを言われなくて済むしね」
パソコンやITが今も苦手なのは、初めて聞くカタカナ語も障害になった気がしている。温暖化対策、生物多様性、エネルギー問題など幅広い国民の議論や理解が不可欠な政策については、専門家だけでなくうちのカミさんにも分かるような言葉を使ってほしい。



 “安全の砦”原子力規制委の魂は抜かれてしまったのか
2023/06/20(Tue) 文:(滝)

原子力規制委員会委員長代理(2012〜14年)だった島崎邦彦さんが3月末、福島原発事故を検証した『3.11 大津波の対策を邪魔した男たち』(青志社)を出版した。「大津波の警告が出されようとしていたが、(費用がかかる)津波対策を取りたくない原子力ムラの画策で隠された」と多くの資料や証言に基づいて告発している。
福島原発事故後、「原発の安全をチェックする原子力安全・保安院が、推進する資源エネルギー庁と同じ経済産業省内にあったのが問題」との反省から、独立性の高い3条委員会として規制委が発足し、その事務局が規制庁だ。つまり、行政とは独立した立場から原発の安全を守る「最後の砦」が使命だ。
岸田政権が原発推進に大きく舵をきったことに対する評価は人それぞれだろう。朝日新聞社の世論調査で、停止している原発の再稼働賛成が51%と震災後初めて過半数を超えた(反対は42%)。また60年超運転、処理済み水の海洋放出についても賛成が反対を上回った。大震災から12年経っての記憶の風化や電気代高騰から、国民の意識の風向きが変わったのは事実だろう。
残念なのは、唯々諾々と追随する規制委の動きだ。2月10日閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の柱の一つが原発活用であり、そのための60年超運転ともいえる。規制委は同月13日に異例の多数決で60年超運転を容認する決定を行った。5人の委員のうち一人は「科学的・技術的な知見に基づいて人と環境を守ることが使命。安全側への改変といえない」と反対を貫き、他の委員からも「締切りを守らなければいけない感じでせかされた」「こういう形で決められることに違和感を覚える」などの発言があったが押し切られた。60年超運転を可能にする改正法案の閣議決定(同月28日)の日程ありきだったとしか思えない。
規制庁のトップ3人が経産省出身者で占められたこと、そして規制庁と資源エネルギー庁がこの問題をめぐって7回の非公表面談をしたことも明らかになっている。「仏作って魂入れず」ということわざがあるが、3.11を教訓につくられた「安全最優先の魂」が抜かれてしまったかのようだ。
元地震学会会長でもある島崎さんは、同書でこう警告している。「そして、いまも状況は変わっていない」



真の復興妨げる「思遣之心」の欠落
2023/05/26(Fri) 文:(水)

この3月、東日本大震災(震度7、M9.0)発生から12年目を迎え、東北育ちの小生としては様々な思いが交錯した。一見、12年も経って東日本沿岸部の高さ8m以上もあるコンクリート製防潮堤などのインフラが整備され、防災の観点からは30〜50年に一度の大津波から何とか地域住民をブロックできるかもしれない。その一方で多くの海域で雄大の海の景色が目前から消え、なんの潤いのない海外線に変わり果てたところも少なくない。
タンクに溜まり続けている処理済み水の放流問題もギリギリの状況が続く。しかもこれから30年以上は続く世界でも最大級の廃炉作業の実質始まりであり、放流問題が解決しない限り前に進めない。権威ある国際機関や政府が全く問題ないと言っても「安心」や「風評」をゼロにすることはできない。そこで提案だが、放流当初2〜3年程度はチョロチョロ水で流しそれを関係者の了解の下に徐々に増やし利害関係者・消費者・地域住民などが定期的にウオッチする「国民海洋保全賢人会議」のような独立組織をつくったらどうか。
もう一つ3.11の原発事故では周辺市町村のエリアが放射性物質に汚染され、その後に帰還して生活するための除染作業によって生じた残土等が福島県内の中間貯蔵施設や県外に多く残置されている。事業を受け持つ環境省は人の健康に問題ない除去土壌を公共事業等に再利用する計画を進めており、同省が敷地管理する埼玉県所沢市の環境調査研修所と東京新宿の新宿御苑管理事務所でその土壌の再利用を関係自治会に説明したところ、迷惑施設などとして反対されている。よく聞く話で近くにある公園施設で子供の騒ぎ声がうるさいから閉鎖しろとか新設するな、などの身勝手な要求に共通する現象だ。
当時の大蔵省から環境省に出向、事務次官を最後にその後神奈川県知事を2期務め上げた岡崎洋氏(故人、2018年死去)の遺稿集「行くに径(こみち)に由らず」によれば、どのような経済社会体制の如何を問わず▽個人の他に対する配慮の欠如▽野放図な経済発展・開発推進の優先を是認する社会の風潮――などが、社会への「思遺之心」(おもいやりのこころ)を消滅させる要因と指摘する。我われはもう少し人間生活の原点を思い起こすべきではなかろうか。



不十分な地方との意思疎通、カタカナ語乱用も一因
2023/05/19(Fri) 文:(M)

東日本のある県の職員は、環境省が2022年度に始めた脱炭素先行地域を「自分たちで事業内容を決められるので、使いやすい」と評価していた。県が申請に協力した市が、脱炭素先行地域に選ばれた。「県内の他の市町村も手をあげてほしい」と広がりを期待する。
一方で「再エネ促進区域」には関心がない。再エネ促進区域は、市町村が再生エネ事業に適した場所を選定する。太陽光や風力発電事業が住民とトラブルになる事態が起きており、行政が関与することで合意形成を図りやすくしようと政府が22年4月施行の改正地球温暖化対策推進法(温対法)で創設した。
県職員は市町村の本音を代弁し、「行政側からすすんで私有地を促進区域にすることはありえない。発電事業ができる公有地もない。あるとしたら林地だが、わざわざ樹木を伐採することもできない」と語る。すべてが国の思惑通りとはいかないようだ。
また、西日本のある県の職員はカタカナ用語をぼやいていた。「前政権はカーボンニュートラルと言っていた。それが現政権はクリーンエネルギー戦略と言ったと思ったら、グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針が出てきた」とカタカナの変遷を並べる。クリーンエネルギー戦略は“グリーン(緑)”ではなく、“クリーン(きれい)”だったので「紛らわしくて県議会議員が混乱している」と困惑する。
他にも「規制があった方がやりやすい」と注文をつける。地元企業向けセミナーを開くと、「脱炭素は良いことだと理解したけど、取り組まないとダメなのか」と質問されたという。二酸化炭素(CO2)排出量削減は規制ではないので、行政としては強制ができない。「森林整備をしてJ−クレジットを創出しているが、意欲的な企業しか買ってくれない。CO2削減が規制的なものであれば、買い手が付いて森林整備に資金が回る」と期待する。カタカナ言葉の連発よりも、現場の要望にあった施策を望む。
国も自治体の声を聞きながら制度を作ってきたはずだ。しかし、運用すると課題が出てきて当然なので、柔軟な修正が求められる。30年度の13年度比46%削減に向けた時間がない。国と地方は意思疎通をして、実効性のある施策を作ってほしい。



脱炭素で頑張る企業が報われる仕組みを!
2023/04/07(Fri) 文:(水)

『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など、数々のヒット作を手がけた映画プロデューサーの鈴木敏夫さんは著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書刊)で、あえて雑誌の部数を落としたエピソードを明かしている。
徳間書店に勤務していた当時、担当した雑誌がヒットし、みるみる部数が増えた。しかし、周囲からのプレッシャーが高くなり、数字を追って誌面から自由がなくなったという。そこで鈴木さんはアニメ作家の宮崎駿さんの特集を組んだ。まだ知名度は低かったが「本当にやりたい企画」だったという。部数は半減したが、自由を取り戻し「みんな雑誌を作ることを楽しみ始めた」と回想する。
最近、似たような話を聞いた。国産材を加工した環境配慮商品を企画し、事務用品専門のインターネット販売サイトで売り始めた。しばらくするとサイト運営会社から連絡があり、供給を増やしてほしいと頼まれた。値下げを求められると覚悟していたが、「価格を下げると環境価値が伝わらなくなる」とキッパリと言われたという。商品は値下げが売上高を伸ばす一つの手段だが、サイト運営会社は環境価値にこだわった。雑誌は面白い誌面があってはじめて部数を競う。環境配慮商品は環境価値で消費者に選ばれるのであって、本来なら価格での勝負は後回しのはずだ。
しかし、まだまだコストが優先される。ある会議で再生可能エネルギー電気の購入や、売上高の一部を自然保護活動に寄付する中小企業を話題にしていると、ある中小企業の経営者が「再生エネなんか使って余裕があると思われたくない。取引先からは寄付できるならコストを下げろと言われる」と発言した。これも現実なのだろう。
いま、脱炭素に意欲的な中小企業は社屋に太陽光パネルを取り付け、営業車を電気自動車(EV)に代えるなど、環境配慮商品を購入している。どれも今は高額だが、太陽光パネルやEVは年々、価格が低下するので後から脱炭素に取り組んだ企業ほど得する。
コストがかかっても頑張った企業が報われる仕組みが、カーボンプライシングだ。CO2の排出を減らすほど得になるからだ。しかし、日本の排出量取引は自由参加、炭素賦課金の対象も一部企業となった。政府には先行して頑張る企業が報われる仕組みも考えて欲しい。



脱炭素で頑張る企業が報われる仕組みを!
2023/04/07(Fri) 文:(水)

 『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』など、数々のヒット作を手がけた映画プロデューサーの鈴木敏夫さんは著書『ジブリの仲間たち』(新潮新書刊)で、あえて雑誌の部数を落としたエピソードを明かしている。
 徳間書店に勤務していた当時、担当した雑誌がヒットし、みるみる部数が増えた。しかし、周囲からのプレッシャーが高くなり、数字を追って誌面から自由がなくなったという。そこで鈴木さんはアニメ作家の宮崎駿さんの特集を組んだ。まだ知名度は低かったが「本当にやりたい企画」だったという。部数は半減したが、自由を取り戻し「みんな雑誌を作ることを楽しみ始めた」と回想する。
 最近、似たような話を聞いた。国産材を加工した環境配慮商品を企画し、事務用品専門のインターネット販売サイトで売り始めた。しばらくするとサイト運営会社から連絡があり、供給を増やしてほしいと頼まれた。値下げを求められると覚悟していたが、「価格を下げると環境価値が伝わらなくなる」とキッパリと言われたという。商品は値下げが売上高を伸ばす一つの手段だが、サイト運営会社は環境価値にこだわった。雑誌は面白い誌面があってはじめて部数を競う。環境配慮商品は環境価値で消費者に選ばれるのであって、本来なら価格での勝負は後回しのはずだ。
 しかし、まだまだコストが優先される。ある会議で再生可能エネルギー電気の購入や、売上高の一部を自然保護活動に寄付する中小企業を話題にしていると、ある中小企業の経営者が「再生エネなんか使って余裕があると思われたくない。取引先からは寄付できるならコストを下げろと言われる」と発言した。これも現実なのだろう。
 いま、脱炭素に意欲的な中小企業は社屋に太陽光パネルを取り付け、営業車を電気自動車(EV)に代えるなど、環境配慮商品を購入している。どれも今は高額だが、太陽光パネルやEVは年々、価格が低下するので後から脱炭素に取り組んだ企業ほど得する。
 コストがかかっても頑張った企業が報われる仕組みが、カーボンプライシングだ。CO2の排出を減らすほど得になるからだ。しかし、日本の排出量取引は自由参加、炭素賦課金の対象も一部企業となった。政府には先行して頑張る企業が報われる仕組みも考えて欲しい。



本格炭素税導入の実質先送りは環境省の敗北
2023/03/31(Fri) 文:(水)

先号に引き続き岸田政権が新しい資本主義の重要政策としているGXの基本方針案を取り上げたい。次世代の人々も含めて、国民すべての経済と生活に関わる気候変動問題→脱炭素化社会の構築に向けた対策メニューなのにカタカナ語、しかも普段耳慣れない単語を平気で使うとは官僚も政治家も国民を舐め切っているとしか言いようがない。
先日、この通常国会に提出予定のGX関連法案骨子が明らかになった。法案名が長くて恐縮だがそのまま表記すると@脱炭素成長型経済構造への円滑な移行推進に関する法律、A脱炭素社会実現に向けた電気供給体制確立を図るための電気事業法等改正、の2本。2本とはいうもののAでは電気事業法の改正をベースに、原子炉等規制法・原子力基本法・核燃料再処理等資金拠出法と、事業規律等を強化するFIT法など既存5法律を改正する「束ね法案」となっている。
@ではCO2多排出型の基幹産業を中心に脱炭素型に移行するための先行投資を国がこの先10年間で20兆円用意して支援する一方で、その財源調達として「GX経済移行債」の発行、排出量取引の具体化や「炭素に関する賦課金」を2028年頃から導入する。なかでも脱炭素化経済社会への移行にとって不可欠な本格炭素税の導入は見送りとなり、CO2排出そのものへの課税ではなく拠出金に近い負担という性格の曖昧な“賦課金”で、しかも5年先導入という悠長さだ。
この制度をまとめた経済産業省の政策当局者には、EUが実施を決めた炭素国境税措置の具体化を見ながらとか、産業界が反対する本格炭素税への柔軟対応、防衛対策強化に伴う財源確保との競合などがあったかもしれないが、タイミングを誤った判断ではなかろうか。特にこの10年来再三再四にわたって本格炭素税の導入を主張してきた環境省の対応は将来に禍根を残すものとなりかねない。今のところ「炭素賦課金」は現行の石油石炭税を転用する上流段階で課す方針であり、炭素排出に対するペナルティという一番重要なメッセージが国民に伝わらない怖れもある。何よりも昨今コンビニなどで当たり前になっているレジ袋の有料化で実証された経済的負担が生活変容を変えるという実績があったのにである。環境省行政の敗北といっても言い過ぎではない。



「失われた10年」の環境版になるか
2023/03/08(Wed) 文:(水)

 昨年末、官邸主導で検討されてきた2030年・2050年の脱炭素化社会を目指す「GX実現に向けた基本方針案」がまとめられた。間もなく始まる通常国会にカーボンプライシング(CP=炭素の価格付け)含む関連措置を具体化した新法と10本近くの既存関連法提出を予定する。
 だいたい“GX”という横文字の言い方が気に入らないがそれは措くとして、我が国公害・環境行政の歴史的な転換点になることは間違いなさそうだ。基本方針案では今後10年間に脱炭素化対策として約150兆円の官民投資を想定、うち約20兆円を官主導で先行投資(補助金、基金、債務保証など)、CP方策として自主的な排出量取引と「炭素に対する賦課金」の導入、財源措置として「GX経済移行債」(仮称)の発行という内容だ。CP方策は概略次の結論となった。
 ▽2023年〜:GX経済移行債の発行 ▽23年度〜:自主的排出量取引の試行、26年度〜: 排出量取引の本格稼働、33年度〜:同じく段階的有償化 ▽28年度〜: 炭素に対する賦課金制の実施(化石燃料輸入者等を対象)
 このロードマップによれば、CO2の排出を実質ゼロ目指す新たな対策着手と実現に今後10年をかけるということになる。これを前提にすれば一連の措置による成果が上がってくるのは早くて5年、最長では10年かかる。環境省は我が国の気候変動対策の拡大・強化について、小泉進次郎環境相の前後から再三、大臣筆頭に「この10年の対応が極めて重要であり、1〜2年がそのための勝負の時機」と指摘。2020年には超党派による気候非常事態宣言の国会決議、さらには2020年から燎原の火のごとく拡がった全国の自治体・議会による「ゼロカーボンシティ宣言」、企業活動のカーボンゼロ目標設定などに繋がった。環境省が合意した今回のGX基本方針はそうした大きな流れに水を差すものであり、何よりもそれに費やしている巨額な予算や組織をあげて国民に要請してきた数々の地球温暖化対策への信頼性と緊要性を裏切るものではなかろうか。「失われた10年」の環境版にはなってほしくないものである。



W杯惜しくも敗退したが、ごみ集めで世界一の賞賛
2023/02/09(Thu) 文:(水)

 4年に一度開催のサッカーW杯にはテレビの前に釘付けとなった。予選リーグで世界トップクラスのドイツを破りさらに強豪スペインも撃破、悲願としてきた決勝トーナメント入りを果たし、国民から大喝采を受けた。5日の決勝トーナメント初戦はPK戦の末惜しくも敗れたが、予選リーグでは下馬評の高くなかった日本チームが強豪のドイツ、スペインを倒し、しかも後半に逆転勝ちした雄姿は最近少なくなった「日本ここにあり」を示してくれた爽快なものだった。
 実はもう一つW杯会場で世界から評判を呼んだ出来事があった。テレビの実況中継にはほんの数秒しか映らなかったが、クロアチアに負けたあと誰もいなくなった広い観客席で、数人のサポーターが一所懸命散らかったごみ集めをしていた。ついさっきまで日本チームの無念の負けを目の当たりにして、“馬鹿野郎”の一つとともに紙コップなどを投げつけたくなるであろうに、サポーターらは何事もなかったように、たくさんのごみを黙々と集め続けていた。
 こうした光景がテレビで観ていた世界のサッカーファンを驚かせ、日本人は「#えらい」「#献身的だ」「#さわやかだ」などの声がネットやツィッターの世界で次々と拡散したという。どうも海外の人々には、こうした日本人の“立つ鳥跡を濁さず”という当たり前な日本人の文化が理解されていないようだ。日本サッカー協会は組織的にやっているわけではないというが、今回W杯のいずれの試合後も同じ光景があったという。
 徳島県の東部に上勝町という人口わずか3千人あまりの小さな町がある。この町にはごみ収集車もなく、住民は徹底的にごみを再利用したあと自らごみ収集分別センターに出向き13種類45に分別、それを町がリサイクル・資源化する。この日本で初めてといわれる「上勝町ゼロ・ウエイスト宣言」はこれまで17年間も続け、今年11月には2030年に向け新たな挑戦を行うことを決めている。昨今、政府の気候変動対策には「資源循環型社会の構築」が決まり文句のように登場してくるが、もう一度こうした日本人の当たり前の文化を形にあるものとして前に進めたいものである。



常連「化石賞」の安易さと政府の沈黙
2023/01/20(Fri) 文:(水)

 エジプト東部のシャルム・エル・シェイクで開催されていた27回目の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)は当初予定の会期(2週間)を2日延長、11月20日に気候変動対策全般の強化を求める「シャルム・エル・シェイク実施計画」や2030年までのCO2等排出量削減計画の強化、途上国が強く主張していた気候変動の悪影響に伴う損失と損害支援のための「ロス&ダメージ基金」(仮称)の設置などが採択された。参加者の帰国チケット時間ギリギリまで最後の結論が出ないというのは毎度のことだが、それだけ全体合意の綱渡り状況が続いているのもこの国際会議の宿命とも言えよう。
 我が国からは西村明宏環境相を筆頭に外務省、環境省、経済産業省など10省庁の関係者、同時に開催されたサイドイベントには30以上の企業・自治体・団体・環境NGOが参加、温暖化対策への積極的な取り組みを発信した。なかでも我が国が海外環境協力事業として特に力を入れているパリ協定第6条規定の「二国間クレジット制度(JCM)」では、昨年のCOP26会合での日本主導による実施指針決定に引き続き詳細ルール(報告様式・記録システムの要件等)の策定を主導するなど、重要な役割を果たした(本誌でJCM実施企業の取り組みを連載中)。
 それにしても解せないのは国際的環境NGO(気候変動アクションネットワーク=CAN)が地球温暖化対策に後ろ向きな国にバッドジョーク賞として授与する恒例の「化石賞」の日本授与と、その妥当性をほとんど分析することなく毎回取り上げる大手メディアの報道姿勢である。同様に、授与に対して何の反応も示さない日本政府の対応だ。日本の化石賞授与は1999年のCOP5を皮切りに毎回のように受賞、今回も米国、ロシア、エジプトなどと一緒に名を連ねた。我が国はパリ協定の目標1.5℃に沿った削減対策を国あげて実施、毎年のCO2排出量は削減傾向になっているにも関わらず、恣意的な物差しで選定するというのは公平性を欠く。懸命に節電などを実践している国民からすれば授与は納得できるものでなく、環境省もその不当性を反論すべきだろう。
 ここ数年を見れば世界のCO2等排出量の約40%を占めているのは中国と米国であり、特に中国は28%強を占めしかも2030年まではまだ増やし続ける方針という。そうした世界最大の排出国・中国こそ授与国にふさわしいはずだが、最近自国に有利な国際世論形成に熱心な中国から鼻薬でも効かされているのだろうか。



生物多様性のCOP15間近、日本は何を主張?
2022/12/19(Mon) 文:(M)

 先日、東京都調布市にある都立神代植物公園に出かけた。武蔵野の面影を残す雑木林をめぐり、4800種の植物を1本ずつ見て歩くだけですぐに夕方になった。最後はベンチでコーヒーを飲むと、喧騒を離れた場所でリフレッシュできたと感じた。他にも親子や学生、老夫婦がバラ園や芝生公園でくつろいでいた。自然は人に癒やしを与えてくれる。
 紅葉の季節を迎えた各地の景勝も観光客でにぎわっている。自然を目当てに人が集まれば、周辺の商業施設にも経済効果が生まれる。こうした誘客も自然の力だ。もちろん生態系保全や二酸化炭素(CO2)吸収による気候変動対策の機能、防災、都市の魅力向上の効果もある。
 海外でも自然の多様な機能が注目されており、欧州では政界や経済界のリーダーが「Nature based solutions」という言葉を使う。日本語で「自然を基盤とした解決策」と訳され、通称「NbS」と呼ばれる。生物多様性に貢献しながら他の社会課題も解決する自然の保護・再生活動を指す。
 CO2の排出削減だけでは地球温暖化の進行が止まらず、欧州のリーダーたちはNbSにも気候変動対策を担わせようと主張している。一方の途上国はNbSに警戒する。気候変動と生物多様性のそれぞれで資金支援を得たいが、NbSの考えで同時解決となると獲得できる資金が目減りする。
 活発な議論を尻目に、ある日本企業の幹部は別の心配していた。欧州の有識者と会話すると、手つかずの生態系を守ることが自然保護という思想があると感じるためだ。一方、日本では人が手を入れながら自然を守ってきた。その代表が里山だ。もし欧州流の価値観で自然の改変を一切許さない自然保護のルールが決められると、日本流の自然共生は認められなくなる。その幹部は日本が正当な評価を受けられなくなると危惧する。
 気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が終わると、12月には生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開かれ、国際ルールとなる「ポスト2020生物多様性枠組み」が話し合われる。その原案にはNbSの発想で生態系の機能で温室効果ガス排出量を削減する目標がある。また、ビジネスによる生態系への悪影響を半減させる目標があり、日本企業も強い関心を寄せる。
 自然保護と言っても国や立場によって利害や思想が異なり、激しい交渉が予想される。日本政府は何を主張するのか、戦略を問いたい。



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