今月のキーワード エネルギージャーナル社

今月のキーワード
[過去49〜64 回までの今月のキーワード]


温室効果ガス排出量「30年46%減」の持つ価値とは
2021/05/31(Mon) 文:(M)

 「羽生にらみ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。プロ棋士の羽生善治さんが対局相手をにらんだ眼光が鋭いため、こう表現されるようになった。「盤面を集中して読んでいる状況で顔を上げたに過ぎない。何気なく見ているのだ」と羽生さんは著書『決断力』(角川新書)で弁解している。
 菅義偉首相が決断し、日本の2030年度の温室効果ガス排出削減目標を13年度比46%削減にすると表明した。現状の26%減よりも大幅な引き上げとなる。何十手も先を読んで最善の一手を決断する羽生さんのように、首相も集中して熟考したのだろうか。
 羽生さんは同じ著書で、「『まだその時期じゃない』『環境が整っていない』とリスクばかりを強調する人がいるが、環境が整っていないということは、逆説的にいえば、非常にいい環境だといえる。(中略)リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい」と述べている。リスクが大きいほど、挑戦して克服した時に得る価値も大きいということだ。
 では新しい目標の「46%減」は、環境が整った上での決断だったのか。現状の最大限の努力でも40%減が限界だったと言われている。菅首相自身は「積み上げた数字で全力を挙げれば、そこ(46%)が視野に入った」と説明する。何とか「46%減」に到達できる環境が整ったということのようだ。
 では「46%減」に大きな価値があるのか。首相表明の翌日、小泉進次郎環境相は「政府が明確な意志と覚悟を示すことで民間のESG(環境・社会・企業統治)金融を動かす」と発言した。民間の投資を誘導する旗印として、高い目標を掲げる価値があるという。
 では「46%減」は、国民にとってどれだけの価値がある数字なのだろうか。巨費を投じて目標を達成したとしても、企業が疲弊し、国民生活にも大きなしわ寄せが出たらどうだろう。菅首相は成長戦略やイノベーションを強調するが、国民生活がどのように豊かになるのかが伝わってこない。積み上げの中身(削減の内訳)はもちろんだが、46%減が持つ価値を説明してほしい。価値がわからなければ、企業も国民も高い目標に向かって排出削減に取り組む意欲が沸かない。



子どもたちを考えるとやはり再生エネが一番
2021/05/06(Thu) 文:(山)

 4月も半分が過ぎました。小学校、中学校、高校、大学の新入生も、新しい環境に慣れて勉学に励むとともに、新しい友人ができて、皆でスポーツなどにも取り組んでいるのではないかと思います。ただ、4月29日から5月5日までは4月30日と土曜日の5月1日(メーデー)を除いて長い休日があります。
 大きなお世話かもしれませんが、学校が始まって1ヵ月足らずでこれほど休みが多いというのはいかがなものかという気がします。もちろん働く人たちには体を休めるとか、家族旅行するとか、結構なことなのだとは思いますが…。
 エコノミックアニマルと揶揄された働きずくめの日本のサラリーマンにとっては旗日が多いことはありがたいことでしょう。ですが、少なくとも「昭和の日」はいらないのではないでしょうか。さらにいえば、「みどりの日」「スポーツの日」などもいらないように思います。旗日を増やせば、おそらくその分、別の日に仕事量が増えるだけということになりかねません。
 突然、話しは変わりますが、本号の特集は高層ビルや商業施設のなどの電気を再生可能エネルギー100%にしようと取り組んでいる企業を紹介しています。再生100%エネとは、これまで化石燃料と呼ばれる石油や石炭、天然ガスなどを使っていたのに対し、太陽光や風力、水力、地熱といった自然界に存在するものを使って再生エネルギーに変換しようということです。
 化石燃料は燃焼により、環境汚染物質が排出されるし、世界中で使うようになれば、やがては枯渇することも考えられます。一方、再生エネは環境汚染物質の排出はないので、環境にやさしく、文字通り“再生可能”で、太陽と地球がなくなるまではどんなに使っても枯渇する恐れもありません。また、日本は幸か不幸か、化石燃料資源はほとんどなく、ほぼすべてを海外に依存している状況です。万一、産油国などで戦争でも起これば大変なことになりかねません。長い目で見れば、お金を払って化石燃料を輸入するよりも、太陽光や風力などの“再生可能”なエネルギーを着実に増やしていく方がよいのではないでしょうか。
 再生エネの大量普及にはまだまだ難しいところもあるとは思います。でも、日本の産業や国民の生活、将来を支える子どもたちのことを考えると、再生エネの大量普及が何よりも重要ではないかと思われます。



我が国LNG利用に備蓄体制構築が不可欠
2021/04/14(Wed) 文:(水)

 昨年末〜年初早々にあった電力の需給逼迫と卸取引価格高騰の要因が次第に明らかになってきた。経済産業省の有識者検討会議(3月26日開催)に提出された資料では、▽需給逼迫の要因は断続的な寒波による大幅な需要増、▽LNG在庫減によるLNG火力の稼働抑制、▽石炭火力のトラブル/渇水による水力利用率低下/太陽光発電の出力変動、などを指摘している。
 新電力大手のFパワーが倒産(約460億円の負債)に追い込まれるなど卸取引価格の高騰については、スポット市場価格が1月に入ってから1日(48コマ)平均で100円/kWhを超える日が出現したほか、最高価格が154.6円を記録した日もあった(通常は10円前後)。一部報道では旧一般電気事業者(9社)による売り惜しみなどが疑われたが、電力・ガス取引監視等委員会は調査分析の結果、そうした問題となる行為は確認されなかったと結論づけている。
 ここで注目したいのは逼迫期間中に在庫不足となったLNG燃料の安定確保が極めて脆弱な体制となっている実態である。今回はコロナ禍影響やLNG火力の焚き増しによって約250万t弱あった在庫量が約150万t近くまで落ち込み、たちまち需給逼迫を招いたが、年間のLNG輸入量約7650万tに較べてあまりにも低い水準過ぎる。在庫量の少なさは自由化による競争激化に伴い電力・ガス各社が余計な在庫を持たないというコスト削減のためだが、それが常態化しており今後も同じ事態を招く可能性がある。しかもLNGの場合、スポット物を手当てしても需要地に届くまでには2ヵ月弱を要するだけでなく、それを調達するまでの海外との折衝もすさまじい労力だったようだ。
 2030年に向けたさらなるCO2削減要請、既設石炭火力のフェードアウトと再生エネ電源の拡大による調整電源の確保、原子力発電の再稼働遅れによって今後ますますLNG火力の重要性が高まる。加えて気候変動による災害多発や東南海地震なども想定されるほか、東京湾などに入るLNGタンカーの過密化問題もある。あれだけ縦横にガスパイプライン網を張り巡らせている欧州でさえ塩田跡地で数ヵ月分を天然ガスとして備蓄しているという。
 日本は20年以上にわたって原油中心の国内備蓄体制一本鎗を、既得権益があるためか頑迷に変えようとせず先日の経産省のまとめも旧態依然の内容だ。LNG(天然ガス)の備蓄体制構築が本当に不可能なのか一刻も早く検証すべきである。



コロナに振り回された今年度もあと半月
2021/03/25(Thu) 文:(山)

 新型コロナウイルスに振り回された今年度もあと半月で終わる。できれば今年度の終了とともにコロナウイルスも地球での活動を卒業して別の星にでも移動していただきたいところです。
 コロナウイルスの新規感染者数は1月9日の7855人に比べると、減ってきており、3月3日は852人とようやく1000人を下回った。4日は1192人と4ケタに戻っているが、ピーク時からはだいぶ減りつつあるようだ。このまま感染者数の減少を続けて、近いうちにゼロにもっていけたらと思う。
 NHKのまとめによると、3月6日23時59分の時点で新たに確認された東京都の感染者数は293人だが、東京都と境を接する山梨県はゼロ人となっている。ちなみに感染者ゼロ人は14県、感染者一人の県は7県となっている(3月6日時点)。
 弊誌記者はコロナ禍の東京を中心に取材に飛びまわっているが、幸い、弊社ではコロナウイルスの罹患者は出ていません。とはいえ、個人的には早くワクチン接種してほしいと思うのですが、摂取した女性がアナフィラキシーというアレルギー症状に見舞われたことを聞くと、ちょっと怖い気もします。
 本号は「再生エネ新制度を占う」としましてFIT改定と新たに始まるFIP制度、未稼働案件問題を特集しています。FITとはFeed−in−tariffの略で、日本では固定価格買取制度といいます。再生可能エネルギーで発電された電気を国が定めた価格で一定期間電力会社が買い取るように義務づけたものです。
 一方、FIPとはFeed‐in‐Premiumの略で、再生可能エネルギー発電事業者が発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で売電をした場合に、基準価格(FIP価格)と市場価格の差額をプレミアム額として交付する制度です。FITでは市場取引が免除されていますが、FIPでは市場取引が基本となります。ちょっとわかりにくいかと思いますが、詳しくは本号の特集をご覧いただければと思います。
 今年度もご購読いただきました皆様のおかげをもちまして、無事に終わることができました。厚く御礼申し上げます。4月からの新年度ではより一層、充実した紙面の作成に努めます。来年度も「創省蓄エネルギー時報」をご愛顧いただきますよう何卒宜しくお願いいたします。



脱炭素転換で迫られる国の資源政策
2021/03/11(Thu) 文:(水)

 2月9日付け読売新聞朝刊の一面トップに、「資源調達『脱炭素』柱に」という大見出しが踊っていた。これを見て小生は何を今さら、遅すぎるとの思いを持った。紙面の中身を大略すれば、政府は化石燃料主体を対象にしてきたわが国の資源調達の重点分野を水素や希少金属(レアメタル)などの確保に転換する方針を固め、政府が検討中のエネルギー基本計画の改定に盛り込むという内容だ。本格的な議論が始まるエネルギー基本計画の改定では、おそらく再生可能エネルギーや原子力などの非化石エネ割合をどこまで引き上げるか、その際に国家としてのエネルギー安全保障をどこまで確実に担保するのかが大きな論点になるだろう。
 遅すぎるというのは、再生エネシフトや脱ガソリン車が国際的潮流のみならず日本でもこれだけ示されているのに、石油の国家+民間備蓄などに年間1200億円近くの国費投入を依然として続けていることだ。もう一つ今のエネルギー安全保障が役に立っていない典型が最近あった。この年末年始の電力供給で積雪・厳寒により全国で需給が逼迫、電力広域的運営推進機関は大手電力各社に延べ218回にわたって広域融通を指示するという綱渡り状態が発生した。電力の卸取引市場の取引価格も高騰、一時は通常取引価格の20倍以上という水準となった。その主因の一つは主力電源であるLNG火力の輸入燃料確保が間に合わない事態に直面したためという。端的に言えば、わが国がとってきた原油中心の備蓄体制がほとんど役に立たなかった。
 普通に考えれば、これだけLNG火力が主力電源化していれば天然ガス備蓄という発想になるはずだが、それは技術的・コスト的に見合わないとしてまともに検討すらされなかった。すでに欧州では塩田跡を使った半年分程度の備蓄している事例があるし、わが国でも新潟県のガス・石油採掘跡を天然ガス備蓄に活用する構想もあったが立ち消えとなってしまった。本来こうした先見的対応をすべきなのはJOGMECを筆頭に、国が大株主の国際石油開発帝石(INPEX)や石油資源開発のはずだが、いずれも経産省等からの天下り官僚が長年実質支配して国益ではなく省益優先の経営となっているからだ。1日も早い体制見直しが必要であろう。



「低CO2化」への移行、今を生きる私たちの責務だ
2021/02/16(Tue) 文:(山)

 地球規模の気温上昇が起こる地球温暖化の原因は人間の活動による温室効果ガスの増加と考えられている。いろいろな温室効果ガスがあるが、中でも二酸化炭素(CO2)はその筆頭で排出削減が求められている。「気候変動に関する政府間パネル」は第5次評価報告書で、このままでは 2100年の平均気温は温室効果ガスの排出量が最も多い最悪のシナリオの場合には最大4.8℃上昇するとしている。
 日本は1年で最も寒い時期で、かつコロナウイルスとの戦いが続いている。地球温暖化どころではないかもしれない。こんな時にでも子供たちや生まれてくる赤ちゃんにとって、CO2排出量が少なく気候温暖で安全かつ楽しく暮らせる未来を考えることが重要ではないだろうか。
 そのためのCO2排出削減のひとつは自動車燃料の改善である。現在、ほとんどの自動車がガソリンを燃焼させて走っている。その燃料は炭素と水素である。炭素と水素に酸素を加えて圧縮し、点火・爆発させて回転エネルギーとして自動車を動かしている。爆発によって、一酸化炭素や炭化水素、窒素化合物、二酸化炭素などが排気ガスとして出てくる。近年ではほとんどの自動車に触媒が設けてあり、こうしたガスが大量に車外には排出されないといわれるようだが、どうだろうか。排気ガスゼロの自動車が増えるといいのだが……。
 さらに問題はガソリンの税金である。ガソリン価格の半分近くが税金でもっていかれている。日本には優れた自動車メーカーがたくさんあるので、ぜひ、環境に負荷をかけない、かつ安全で税金のかかるガソリンを使わない自動車をどんどん作り出していただきたい。
 本号の特集は「トランジションとコージェネ」です。トランジションとは「移行」という意味で、ここでは着実な低炭素化、脱炭素化への移行ということになります。コージェネはコージェネレーションシステムの略で、排熱を利用して動力・温熱・冷熱を取り出し、総合エネルギー効率を高めるエネルギー供給システムです。
 自動車に限らず、化石燃料を使っている企業や役所、家庭なども含め、私たちは自分自身、そして次代を担う子供たちのためにも、着実な低CO2化への移行「トランジション」に取り組む必要があるのではないだろうか。



コロナ時代にも不可欠な脱炭素社会づくり
2021/02/02(Tue) 文:(水)

 2021年元旦の富士山はいつもの濃いブルーがかった頂上部分が幾重もの白い帯に覆われて堂々とたたずんでいた。山頂部分では風が尾根に巻き込こまれ、烈風の嵐になっている様子もなんとなく見える。いつも感動するのはそのきりっとした姿が、人々の生活の徒然をすべて受け入れる懐の奥深さと勇気を与えてくれるような優しい山容だ。実は小生の住んでいる所は東京多摩地域の多摩川沿いで、天気の良い日は場所によっては高台から富士山の山頂部分がよく見える。
 しかし日本の年末年始の風景は様変わりした。新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐため恒例のご来光を拝むための終夜電車運行も中止となり、初詣も密を避けるとして自粛や一定の距離を保つ対応が普通になった。こうした社会現象はコロナウイルスの特異性からこの2〜3年続く可能性が高く、それに我々がどこまで耐え、一方で従来の社会経済構造をどうリデザイン(再設計)して新たな生活様式を生み出していくかが試されている。
 コロナ感染の発生と現在の気候変動被害の深刻さは同根という指摘がある。端的に言えば、両方とも自然環境への容赦ない侵蝕とあくなき経済の拡大至上主義がもたらした結果ということになろうか。今日社会のリデザインは小泉進次郎環境相が昨年後半に環境政策展開の柱として打ち出したものだが、今年はそのために地方の自治体や一定のコミュニティエリアにおいて「ゼロカーボン共同体」を試行的に構築していく具体的な施策展開を明言している。例えば長野県を筆頭に長崎県の壱岐市、岩手県の軽米町や福井県の大野町などだ。
 菅義偉首相は「2050年までにカーボンニュートラル」を実現する方針を示し、政府も政策総動員の対策を進めているが、小泉環境相の考えは30年先を待たずこの5〜10年の政策展開が目標実現を左右するとして、ミニ脱炭素社会の前例をつくるという。ただ、そこで追求してほしいのは従来のような外々に向けた経済の拡張主義ではなく、家族団らんや地域資源の再発見など内々に埋もれていたハッピー資源を再発掘することであろう。
 異常事態の新年ではありますが、本年も引き続きよろしくお願いいたします。



2兆円という「脱炭素社会経済」への手切れ金
2020/12/25(Fri) 文:(水)

 2020年のわが国は地球環境問題への対応で歴史的1年となった。菅義偉首相は10月の国会で「2050年までに全体としてカーボンニュートラルを実現する」と歴代首相として初めて宣言、あらゆる経済社会活動を変革していく方針を示した。国会もこれに呼応、衆参の全会派一致による「気候非常事態宣言決議」を採択、政府と国民に対して対策強化を強く求めた。30年先とはいえ、これからの国民生活に重大な影響を与えるこうした方針を霞が関が多用するカタカナ語で提示したのはいただけないが、現代版経済社会革命のスタートといっても過言ではない。
 では「脱炭素社会」とはどんな世界か。今は電気の7〜8割を化石燃料によって発電しているが、これを太陽光や風力などの再生可能エネルギーなどに転換するとともに、製鉄所や化学工場等の熱利用も電化と水素などに変え、自動車など移動機関もガソリンなどの車がなくなることを意味する。すでに欧米諸国が先行しており、2030年代に石炭火力の廃止やガソリン車の販売禁止措置、また50年までにゼロカーボンの実現を公約した国がすでに121ヵ国に上っており、わが国は後塵を拝している。
 今年のトピックに、スポーツ界ではプロ野球日本シリーズで巨人がパ・リーグ覇者のソフトバンクに完敗、しかも昨年の日本シリーズから同じチームに8連敗するという不名誉な新記録をつくった。その負け方もひどかったが、ある野球評論家は「パ・リーグの選手は大方の投手が投げる150キロ台の速球に目が慣れているが、セ・リーグの投手は大半が140キロ台のためそうした違いから巨人の打者は打てなかったのではないか」と分析していたのが印象的だった。
 つまりセ・リーグ全体の平均的な実力が落ち込んでいたにも関わらず、巨人はそのことに戦うまで気付かなかったということだろう。いわばセ・リーグ全体がガラパゴス化していたわけで、それは気候変動対策で欧米に後れをとっているわが国の現状と共通している。政府はそうした温暖化対策の推進を抜本的に強化すべく、追加経済対策の柱に再生エネや水素利用の実装化、カーボンリサイクルなどに2兆円を充てる「脱炭素化基金」の創設を決めた。これが化石燃料に対する“手切れ金”となるかどうか注目されよう。大変な一年でした。来年こそ良き一年となりますように。



コロナで始まりコロナで終わる2020年
2020/12/04(Fri) 文:(山)

 歳をとると月日が経つのは早いもので、あっという間に師走をむかえた。この季節になると、こどものころはプレゼントをもらえるクリスマスやお年玉をもらえるお正月がかきいれどきで、指折り数えていた。まさに「もういくつ寝るとお正月〜〜はやくこいこいお正月」の歌詞通りだった。だが、今年を振り返ると、世界中がコロナウイルスというやっかいなプレゼントに振り回されたことが、最大のニュースだろう。日本では9〜10月にかけて感染者数がおさまりつつあると思われたが、11月からまた感染者数が急増している。残念ながら、来年の正月までにおさまることは難しそうだ。
 12月から来年の正月は親御さんにとってはクリスマスやお正月を祝うどころではなく、とにかく家族をコロナから守ることに一生懸命という状態だろう。家庭だけでなく、企業や学校など人が集まるところは大変なご苦労があると思う。企業はもとより、商店やレストラン、ホテルなどの宿泊施設も計画通りに収入が得られず、苦しい経営を強いられているのではないかと思います。政府はGoToトラベルなるキャンペーンを実施しているが、どこに行っても目に見えないコロナウイルスが徘徊しているわけで、喜んで旅行に出かけるという気分にはなかなかなれないというのが現実ではないでしょうか。
 さて本号の特集は「急加速化する洋上風力」です。洋上風力とは風車を海域に設置して豊かな海風で風車を回し、効率的に発電する仕組みです。海に囲まれたわが国にとって、洋上風力は重要な発電設備になると期待されています。風力発電は太陽光発電のように太陽があるうちだけ発電するのではなく、昼も夜も発電できるのが特徴です。でも、陸上の風力発電は設置場所が風ある地域に限られており、さらに住宅地では羽根の回転による騒音が問題になっていました。陸上の風力に対して、洋上風力は強い風力が持続的に得られるため、安定的に大きな電力供給が可能になる点、もう一つは洋上であるため、騒音や万一の際の人的被害リスクが低く、設置場所の確保がしやすい点である。これらのメリットから、風力発電市場において、洋上風力の動きが活発になってきています。
 洋上で勢いよく回転する風車によって、発電と同時にコロナウイルスも海のかなたに吹き飛ばしてもらえればありがたいのですが、そううまくはいかないでしょうね。



米バイデン政権、国際社会で義務と責任を
2020/12/01(Tue) 文:(一)

 4年間のモラトリアムが明けたと言うべきか、世界2位の温室効果ガス排出国である米国の大統領選で、国際協調路線を掲げる民主党のジョー・バイデン氏勝利が確実となった。皮肉なことに投票日11月3日の翌4日、現職の共和党ドナルド・トランプ大統領の公約どおり、所定の手続きを経て米国は地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から正式に離脱した。バイデン氏には自他ともに認める大国のリーダーとして、国際社会で義務と責任をしっかり果たしてもらいたい。
 2015年の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、レガシー(遺産)を意図した民主党バラク・オバマ前大統領と世界最大の温室効果ガス排出国となった中国が先陣を切って批准し、翌16年11月4日に発効した。規定により批准国は発効後3年間、脱退を通告することができず、通告が効力を発揮するのは1年後。トランプ大統領は昨年11月、国連の事務局に脱退を通告していた。
 自国の利益最優先で「気候変動はでっちあげ」といった過激な発言を繰り返したトランプ大統領は、オバマ前政権による温暖化対策を真っ向否定。途上国の気候変動対策を支援する国連の「緑の気候基金」への資金拠出を停止し、石炭産業を復活させるため、発電所からの二酸化炭素(CO2)排出量を削減するオバマ氏の看板政策「クリーンパワープラン」を撤廃するなど、パリ協定を揺さぶり続けた。
 だが、脱炭素化の潮流を変えることはできなかった。トランプ氏が大統領に就任した17年、パリ協定からの離脱を表明すると、米国ともに批准の先陣を切った中国政府は改めて温暖化対策の履行を明言。米国に追随する国が出るのではないかと懸念されたが杞憂に終わり、パリ協定の批准は190ヵ国以上に拡大している。シェール革命により安価で環境負荷が低い天然ガスが産出されるようになり、石炭産業の復活も経済合理性に阻まれた。また、米国産業界で脱炭素社会の実現をビジネスチャンスと捉える先進的な企業が台頭し、トランプ大統領の脱退表明に批判の声を上げた。
 バイデン氏は気候変動への取り組みをまとめた「バイデン計画」を打ち出して選挙を戦った。脱炭素化で足踏みする理由はない。



再生エネ拡大にも不可欠な河野規制改革
2020/11/24(Tue) 文:(水)

 菅内閣の発足で防衛大臣から規制改革担当相に横滑りした河野太郎氏の動きが脚光を浴びている。菅首相は就任後の重点政策課題の一つに前例踏襲方式を見直す縦割り行政の排除を前面に打ち出し、これを踏まえた河野規制改革担当相が押印廃止などの行政手続き・決済方法の採用を各省庁に要請している。
 河野氏とともに次世代の国のリーダーを目指す自民党若手グループ代表格の小泉進次郎環境相もいち早く共鳴、環境行政における規制改革総点検を推進中だ。
 河野規制改革担当相が意欲を燃やす対象分野は再生可能エネルギー事業もターゲットになりつつある。特にこの分野はまだまだ行政展開の歴史が浅いこともあって、ゆうに10は超える法律(条令も含む)・制度が事業展開に際して適用され、ビジネスの大きな足かせになっているとの指摘が以前から多く出されていた。例えば、農林業を守るための法律といわれる農地法や農業振興地域法、市街化地域などを定める都市計画法などは、太陽光発電や風力発電の導入にブレーキの役割を果たしているのが実態であり、むしろそのことが農村地域の疲弊化に拍車をかけているという。
 特に近年は農村地域における人口減少や高齢化、後継者不足などによって未耕作農地(耕作放棄地)の増加が著しいといわれている。再生エネ事業者はこうした地域に太陽光発電を設置して土地所有者にも副収入をもたらすような事業の具体化を図るが、農業振興地域法などによって当該自治体等の同意が得られず、対象とした土地は従来同様荒れ果てた未耕作農地のまま5〜10年も放置された状態が続くという。自治体等が同意しない理由として、「国の食料自給率向上にとって大事な土地だ」という答えが判で押したように返ってくるという。
 また農村地域だけではなく都市部にもみられる相続者不明等の土地でも同様の行政による不作為が見られ、前述分と合わせるとわが国の土地の10%前後は何の価値も生み出さない不良資産となっている現実がある。
 再生エネの主力電源化にとっては太陽光・風力・中小水力など何れも設置空間の確保が今後の大きな課題なのだから、是非とも河野規制改革を最優先課題にしてほしいものだ。



菅首相、違う考え方の人の声にも耳を傾ける度量を
2020/10/20(Tue) 文:(山)

 菅義偉首相が日本学術会議の新会員のうち6人を任命しなかったことが話題になっている。憲法には政権が学問の自由、言論の自由、思想の自由を奪ってはならないとある。「学問の自由をうたった憲法23条に違反する政治介入だ」―任命されなかった6人の中から、こんな異議の声が上がった。
 6人は安保法制(集団的自衛権の行使を可能にすることなどを柱とする)や共謀罪法(組織的犯罪処罰法改正案)などで政府に反対の立場を取った学者だ。首相が意に沿わないからといって排除するというのでは憲法を無視した暗黒の時代が再現されかねない。
 慈恵会医科大の小沢隆一教授(憲法学)は2015年に安全保障法制の国会審議で、野党の推薦で「違憲」の見解を述べたことがある。小沢教授は毎日新聞の取材に「それが理由ならとうてい承服しがたい。政府方針と違っても言うべきことは言う。学術会議はそういう組織だ」と憤ったという。
 菅首相が、こんなに視野が狭いと先が思いやられる。学術会議前会長の山極寿一氏は「説明もなく任用が拒否されることは存立に大きな影響を与える」と述べた。菅首相に対し文書で理由の説明を求めたというが、加藤勝信官房長官が「個々の選考理由はコメントを差し控える」と述べただけだった。
 これもおかしなことである。学術会議の会員にふさわしくないと、自信をもって任命を拒否したならば、きちんと国民に説明する義務があるはずだ。理由も明らかにせず「コメントを差し控える」では任命されなかった6人と国民に対する説明責任を果たしたことにならない。
 学術会議会員だけでなく、学者の間で「政府の主張に反する立場の人を排除することは学問の弾圧につながりかねない」と危惧する声が広がっている。そのうち、学者だけでなく、政府の意に沿わない国民をパージする暗い時代になるのではというのは、あながち考えすぎではないかもしれない。
 1億2427万人余の国民はそれぞれがいろいろな考え方を持っている。学術会議の中にもいろいろな考え方の人がいるのは当たり前だ。皆が同じ考え方を持っている方が、むしろ恐ろしい。菅首相は自分と違う考え方の人の声にも耳を傾ける度量を持っていただきたい。



菅新政権のど真ん中に、気候変動対策を
2020/10/13(Tue) 文:(水)

 菅義偉新政権が9月16日スタートした。新政権はオンライン化を進めるデジタル庁の創設、先例主義の排除による行政改革、地方経済の活性化などを打ち出し、閉塞感が蔓延している国民に期待感を抱かせた。功を奏してか、新政権発足後の内閣支持率は軒並み60〜70%台の高率にアップ、ご祝儀相場もあるとはいえ前政権とは様変わりだ。
 この高支持率を背景に、自民党内には年内早い時期での衆院解散総選挙を求める声が強まっているが、政界通による直近情報によれば、選挙はむしろ遠のき来年のオリンピック後になる可能性が高くなったという。理由はコロナ禍という非常態下での選挙が国民に受け入れられないという常識論のほか、菅首相にはともかく一つでも仕事をしたことの“実績”をあげることを優先させたいとの考えが強くあるという。東京オリンピック開催を確実なものにしないと財政・経済面での打撃が大きく、国際的な日本への信頼も大きく失墜するという危惧もある。
 菅政権では財務・外務・経産など主要閣僚が再任、従来新人閣僚と女性ポストの指定席といわれた環境大臣も珍しく小泉進次郎氏の留任となった。こうした閣僚の顔ぶれは当然ながら政策面で安倍路線を継承することを意味するが、蓋をしたままの「モリカケ問題」をはじめ財務省職員の自殺などの負の遺産には、日本の政治のステータスを上げるためにもまともに対処してほしい。特に安倍前首相が任命した法の番人である河井克行前法相が大がかりな選挙買収の当事者とあっては、政治の矜持がないに等しい三流国そのものだ。
 ただあまり目立たなかったが、菅政権発足に際して自民党・公明党間で締結された「政権合意」には新たな息吹も感じられる。合意には憲法改正への対応など9項目での連携が明記されたが、その中に「気候変動対策を加速させ、(中略) 持続可能で強靭な脱炭素社会の構築に努める」という異例の1項が入った。安倍前政権は国民の前に常に経済成長(富の拡大)という人参をぶら下げ政策推進してきたが、コロナ禍時代という歴史的転換を迫られる今こそ、菅政権は新しい価値観に基づく生活様式と気候変動問題に対応した日本型グリーン経済の推進を政策のど真ん中において欲しいものである。



安倍首相の涙と政治部記者の非常識
2020/09/24(Thu) 文:(水)

 本誌9月15日号が皆さんのお手元に届いている頃には第26代目の新しい自民党総裁が菅義偉前官房長官に決まり、“菅首相”として内閣改造の真っただ中にあると思われる。歴代首相として戦後最長の連続在任年数7年8ヵ月という記録を打ち立てた安倍晋三首相が突然8月28日に辞任会見、またの投げ出しか?と見られたが「持病が悪化」とても総理大臣の重責を果たすことが叶わぬと判断したという。
 辞任会見では冒頭のコロナ対策に続けた自身の辞任に至った経緯の説明までくると、感極まったのかうっすらと目に涙が滲んでいた。そうした姿をテレビは大写ししていたが、その時は任期途中で病に倒れる無念さと果たせなかった憲法改正へのこだわりが交錯したのかと思った。しかし後で振り返ってみると、その涙は長らく握っていた最高権力者としての舞台から降りる悔しさであり、国民に向けた申し訳ない気持ちとは違うとの気がしてきた。
 ある時マスコミ界の先輩から「政治家とお役人の涙には気を付けろ」と忠告されたことがあったが、その後確かに何回かそうした場面にぶつかったことがあり、今でも演技で涙を流せる人がいると確信している。今回の安倍さんがそうだとは言っているわけではないが、あの辞任会見後に安倍政権への支持率が急変、一時は30%台の危険水準まで落ち込んだ状況が50〜60%台まで回復、それどころか想定外だった安倍政権の政策路線を継承するという「菅義偉新政権」が生まれようとしている。このシナリオを裏で用意した演出家がいたとすれば天才的かもしれない。
しかし政治のプレーヤーが変わっても優先的な政策課題は変わっていない。それはコロナ禍からの経済回復ともう一つの非常事態とされている気候変動危機にどう立ち向かうかである。安倍首相の辞任会見→自民党総裁選→3人の立候補による支持獲得運動、これに伴う報道ぶりを見ても、巨大化する自然災害や熱中症など地球温暖化対策をどうするかは話題にもなっていない。環境エネルギー政策が重要政策になっていないのは今に始まったことではないが、その多くの責任は無定見な政治家もさることながら、いつもその周りにいる大メディアの政治部記者の“非常識”にあるような気がしてならない。



一日も早いコロナウイルス撤退を願う
2020/09/08(Tue) 文:(山)

 昨年末に中国武漢で見つかった新型コロナウイルスがあっという間に世界中に広がり、日本では8月26日時点で感染者6万3822人、死亡者1209人に達した。世界では感染者2401万1502人、死亡者82万1909人となった。わずか9ヵ月足らずでこれだけの人々が感染し、お亡くなりになるとは想像を絶する出来事といえるでしょう。
 外出を避けて、自宅に閉じこもっていれば感染のリスクは少ないのでしょうが、仕事があれば外に出かけなければならない。総理大臣官邸・厚生労働省は集団感染防止のため「三つの密(密閉・密集・密接)」を避けるようにと要請している。もちろん、夜の酒場などでの三密は避けなければならないが、会議や他社との折衝などとなると、そうもいかないことが少なくない。マスクなどで自己防衛するしかなさそうである。一日も早くコロナウイルスが地球上から撤退してくれることを祈るばかりである。
 こうした中でも我々スタッフ一同はコロナウイルスに負けずに、新鮮な情報を皆様にお伝えしようと、おかげさまで元気に飛び回っております。本号の特集は「蓄電システムの最新動向」であります。太陽光発電や風力発電という日当たり任せ、風任せといったいった不安定な電力を安定した電源として活用するには、蓄電池を上手に使うことが欠かせません。
 太陽光発電なら晴れの日に電気を蓄電池に貯めておき、曇りや雨の日には電池に貯めた電気を使う、風力も同様に風の強い日に貯めた電気を無風の日に使うということができるからです。お日さまや風任せの発電設備には蓄電池が有効ということになるでしょう。
 いずれにしても太陽光発電や風力発電などといった温室効果ガスを排出しない発電装置を上手に活用して、地球温暖化の原因となる化石燃料の使用をできる限り減らしていくことが求められています。さらに、これは難しいことかもしれませんが、ひとたび事故が起こると大惨事となるだけでなく、使用済み燃料の処分もままならない原子力発電も太陽光発電や風力発電などの普及によって、少しずつでも置き換えていくことができれば安全に生活を送れる日本を実現できるのではないでしょうか。



横浜市新庁舎、ゼロカーボンのシンボルに
2020/08/20(Thu) 文:(一)

 横浜市は6月末に全面供用開始となった市役所新庁舎(32階建て延べ約14万3000u)で使用する電力を、再生可能エネルギー100%とする。発電設備がある市内のゴミ焼却場から発電電力を自己託送制度で供給し、不足分は契約している電力小売り事業者が、住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)期間満了に伴う卒FIT電力を市内で調達する。横浜に誕生した新しいランドマークが2050年の二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを見据え、市内で消費する電力を再エネへ転換していく「ゼロ・カーボン・ヨコハマ」(ゼロカーボンシティ)のシンボルにもなった。
 ひときわ目立つ超高層ビルの新庁舎はJR桜木町と歩行者デッキで結ばれ、みなとみらい線馬車道駅とは地下でつながる。横浜を観光で訪れた人々は風情のある赤レンガ倉庫や横浜三塔(神奈川県庁本庁舎、横浜税関本関、開港記念会館)を見る前に、“SDGs(環境)未来都市・横浜”という一面を目にすることになる。
 横浜市は東京都や山梨県、京都市とともに、環境省が全国の自治体に地球温暖化対策への取り組み徹底により、宣言を促すゼロカーボンシティの先駆け。市役所は同市で温室効果ガス排出量の約5%を占める最大級の排出事業者であることから、新庁舎に続き25年度をめどに、全18区の庁舎についても再エネ100%化を進めていく。
 一方で、横浜市は2019年2月、脱炭素社会の実現に向けて東北地方の12市町村と再エネに関する連携協定を結んでいる。連携先の自治体で発電された太陽光、風力、バイオマスをはじめとする再エネを横浜市内の需要家へ供給するスキームを検討し、連携自治体全体の地域活力創出につなげる「地域循環共生圏」を構築するのが狙いだ。同年9月には連携先の一つ、青森県横浜町にある風力発電施設で生み出された電力の市内需要家6件への供給が始まり、12月までに契約数は15件となった。横浜市によると市当局は基本的に関与せず、再エネを主な電力供給源とする電力小売り事業者が主導して契約が進んだという。
 ゼロカーボンのシンボル誕生とともに脱炭素化がSDGsの前提として広く認識され、好循環を生み出している。



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